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ダイヤのA 御幸一也

第7章 御幸の記憶


野球を始めた頃はブカブカのユニホーム。

誰とも違うミット、グラウンドで一人座って選手全員を見渡せるポジション。
監督的な役割。
バッターとの駆け引き、野手とのセットプレー。
全部がおもしろい。
誰にも譲りたくなくて必死に練習をした。



「キャッチャーかっこいいね」

俺以上にブカブカなユニホームを着た女の子にそう言われた。

今日の練習試合の相手。
小さいけど、投手としての素質はあったと思う。

目が印象的だった。誰にも撃たせないというあの目。



記憶からその子が薄らいでいた中学1年。
練習が終わって先輩野手に、セカンドのカバーが遅いと話していたとき、生意気だと殴られた。



「ちゃんと片付けして帰れよ、一年ボウズ!」

グラウンドでは、学年なんか関係ねぇだろ。




「はい、これで冷やして。」

「え?」

今日の練習をグラウンドのそばでジッと見ていた女の子。
ビニール袋に入れられた氷、タオルに包んで渡してくれた。

「この氷、どっから?」

「いいから。冷やさないと腫れちゃうよ」

「グラウンドの中じゃ、選手はみんな対等なのに、ひどいことする先輩だね。大丈夫?」

俺と一緒のこと思ってる女の子がいるなんて、正直衝撃的だった。


「キャッチャーってほんとかっこいいな。今日のあなたのプレー見て余計に思った。すごかった!」


目をキラキラ輝かせてこの子が嘘を言っていないのが、よくわかる。

「ど、どうも。」

「また、練習見に来てもいい?」

「いいと思うけど。」

「ありがとう!またね。」

そのキラキラした笑顔がしばらく忘れられなかった。

また来ると言った女の子は来ることはなくて、野球バックに入れられたタオルも返せずじまい。

「舞…か…」

タオルに刺繍されている、あの子の名前であろうその名を時々思い出していた。


もう無理だと落ち込みそうになった時、あの子の事を思い出していた。
今度また会えたとき、幻滅されたら嫌だ。
またかっこいいって言わせてやる。

不純だが、その想いが俺を突き動かす。

「御幸一也だよな?俺矢代っていうんだ。よろしく。」

対戦相手のエースに握手を求められた。

俺のキャッチングやリードに惚れたと恥ずかしくもなく言ってくる。
あの女の子がちらつくのはなぜだ?


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