第6章 一年生 ⑥
「お前ら、全部聞こえてるんですけど!」
「否定しないじゃん」
「寂しかったくせに」
「お前らほんとうるさい、ほっとけ!」
ふたりをシッシッと追い払ってる御幸くんの顔がちょっと赤い。
予鈴が鳴って、みんなが席に戻った。
「心配したのは、ほんと。あと、寂しいってちょっと思った。」
聞きのがすかと思うほどの小さな声。
「マネージャーには元気でいてもらわねぇとな」
「うん!今日からまた頑張る!」
3学期も残り少なくなって、春休みになれば新一年生が入ってくる。
ちょっと前に、東先輩に勝負を挑んだ、あの子。
入学してくるなかな?
一打席だけだったけどふたりが、バッテリーを組んだ時、すごくワクワクした。
御幸くんならもっとあの子を輝かせることができるんじゃないかって。
「あの子の球、どうだった?肩関節も手首もすごく柔らかそうだし、ボールの出処わかりにくいんじゃない?」
「おー?さすがだね。本人はストレート一本つってるけど、あれはムービングボールだな」
「ちょっと変化してるなって思ったけど、まさかのムービング?!よく捕れるね。さすが!」
パチパチと拍手を贈る。
「後ろにはぜってー反らせないよ」
ふたりのピッチングをもっと見てみたい。
"作品"だと言う御幸くんは本当にいいキャッチャーなんだと思う。
あえて、嫌われ役を買って出たり、きついことを言わなきゃいけない。
投手陣はみんな御幸くんの事を信頼してるから、「ナイスボール」って言ってくれたら自信が出るってノリくんが言ってた。
ほんと、すごいなぁ。
一年生が終わり、春休みに突入した。
明日から新一年生がチームに合流する。
名前と顔を覚えるのは大変だけど、どんな出会いがあるのか楽しみだな。
「舞ちゃん、針と糸ある?ボタンつけて」
ユニホームのボタンが取れたと御幸くんがマネージャー室にやってきた。
「あるよ。上、脱いで。休憩中につけとくから、ご飯食べてきなよ」
「もうちょっとここにいる。練習試合解禁になって、偵察隊として出かけちゃうから最近かまってもらってねぇし」
「かまうって…子供みたい。」
おしゃべりし過ぎて午後練に遅れそうになったのはここだけの話。