第60章 嫉妬
御幸くんの話をナベちゃんは興味津々に聞き始める。
「ハハッ!それは確かに鈍いね。
どうしてだろうね。野球の事になると鋭く色んなところに神経研ぎ澄ますのに。
その手の話にはからっきし駄目なの、変わんないよな。
奥村の場合は、当てつけだろうけどね。
御幸が羨ましくて仕方ないんだよ。」
ナベちゃんは、予想だけどと話し始めた。
奥村くんの出身のシニアのチームは、自分たちで考える野球を徹底して教えこまれた。
だから野球IQは高いけど、楽しんで野球をしてるようには思えない。
秋大の時、グラウンドで笑ってる御幸くんを驚きの眼差しで見ていたらしい。
だから、御幸くんを必要以上に敵視してる。
彼の持ってるものすべてが欲しくなるのではないかと。
「なるほどな。」
「楽しんで野球やれないなんて、なんか悲しいね。」
「こらこら、同情して気持ち引っ張られるなよ」
「あいた…」
ピンッとデコピンを頂戴した。
「でも、ナベちゃんよく見てるね。」
「奥村、瀬戸は秋大からずっとスタンドにいたからね。あいつら目立つし、奥村の視線は常にバッテリーに向けられていたしね。
あくまでも想像だから。本人に確かめたわけじゃないよ。」
瀬戸くんの守備とか見てるとワクワクするのに、奥村くんのリードは…なんだろう…うまく言えないけど、見てると苦しくなる。
ずっと疑問だったけど、ナベちゃんの話を聞いたら腑に落ちた。
奥村くんが楽しんで野球やれたら、もっともっと成長できそうだなぁとナベちゃんの話を聞いて思った。
「矢代は誰にでも優しくできて気遣いもできる子だけど、少し魔性な所あるから、気をつけた方がいいかもね。
こっちが思ってる気持ちが相手も同じだとは限らないよ。」
「いいぞ、ナベ。もっと言ってやってくれ。」
「私ってそんなに無神経だった?」
「そうじゃない。矢代は自分が思ってる以上に可愛くて魅力的な女の子だって事。青道高校裏人気投票で彼女にしたい女の子第1位って知らないでしょ?」
「なにそれ、そんなのあるの?知らない。」
新聞部のお遊びで、表立って公表はしないけど、毎年男の子の間でいろんなランキングがなされているらしい。
「それ男子のがあったら御幸くんが1位かな?」
「顔だけだったらね。性格が難ありなのもうみんな知ってるから、どうだろうね。」