第59章 事件
「俺は一軍に上がるだけじゃなく、レギュラーポジョンも何もかも奪い取るつもりですよ。」
「へぇ」
うわっ、御幸くんの声色が果てしなく下がった…。
横目で私を見た奥村くん…。
え、なんで…。御幸くんがものすごく視線を送ってるんだから、そっち見ないと…。
いや、見たら見たでバチバチなるか…。
奥村くんの視線が御幸くんに戻った。
あー、やっぱりバチバチだ。
「おもしれぇ」
「ハハハッ」
「でもさ、急いでくれないともう夏だよ?予選始まっちゃうよ?
監督に楯突いてる場合じゃないだろ?」
「倒し甲斐あんだろ?」
「引退しちゃうよ、俺。
まぁでも、もう一年あったとしても、奪い取られるつもりねぇから。ポジョンも舞ちゃんも。」
は?私?!
私の話、一言でも出た?
「ライバル多くてやんなるな…。」
で?と御幸くんは私の方に話を振った。
「データ纏められたんだ。見せて。」
怒ってる?御幸くんが放つ空気がピリついてて、ちょっとだけ怖い。
「まだ、ナベちゃんたちやってるんだ…手伝ってくる。」
「後で見に行く。」
まともに御幸くんの顔を見れないまま、食堂まで走った。
なんなんだ…あれ…。
よくわかんないや…。
ふぅ…とため息をつくと、ナベちゃんが疲れちゃった?って聞いてくれた。
「ううん、ごめんね。考え事…集中しなきゃね。」
気合いを入れ直した所で、のしかかってきたのは御幸くん。
重い…。
こしょこしょ、擽られて、やめてーと笑いながら叫ぶ。
「あれでわかんねぇとか、舞ちゃんほんと、にぶちん…。」
「なんかあったの?」
「ナベー、奥村に宣戦布告された。」
ナベちゃんは目を真ん丸にして驚いた。
「御幸に宣戦布告なんて勇気あるね。なんて言われたの?」
御幸くんが私の頬を摘みながら、ナベちゃんにさっきのことを話していた。
なんだこれ、八つ当たり?!
痛くはないんだけど、すっごく間抜けな顔してるだろうから、それが恥ずかしい…。