第57章 御幸の気持ち ⑧
抱き潰してしまうのはもう何度目だろうな…。
スヤスヤ眠る舞ちゃんの顔を見て毎度毎度後悔する。
サプライズで浴衣姿を披露なんてしてくれちゃってさ…。
可愛すぎてヤバかった…
誰の目にも触れさせたくなかった。
自分が以外と子供っぽかったんだって舞ちゃんといると思い知らされる。
どこか冷めた所があるのも、仲間に望んでいる言葉をかけてやれないのも、性格悪いのも自負している。
どんな手を使ってでも手に入れたかったのは甲子園の切符と舞ちゃんだけ。
さっきあげたマイナス面を舞ちゃんは受け入れてくれてる。
小さい頃から家のことやって、我慢ばかりしてきたんだから、俺がそういう思考になるのも仕方ないって、笑い飛ばしてくれる。
全部ひっくるめて俺のことが好きだって言ってくれた時は、恥ずかしい話…泣きそうになった。
このまま彼女の寝顔を見ているとちょっかいをかけかねない。
頭を冷やすために、外の空気を吸いに行った。
「終わったかよ…」
倉持が恨めしそうにユラ〜と背後に立つ。
「あれ?まさか聞こえてた?」
「バカ言え。だいたい予想はつくだろうが。気を利かせて時間つぶしてやったんだ。感謝しろ。」
そう言えば…隣の部屋は倉持だったか…。
悪いなと言えば小突かれた。
「自制しろとは言わねぇけど、時と場所を考えろ。遠征中!しかもまだ明日もある!隣部屋の俺可哀想。声なんか聞かされたらどんな顔すりゃいいんだよ、バカタレ」
「はい…すみません。」
「1人スッキリした顔しやがって、あームカつく!!」
いつもより鋭いスイングの音。
相当ムカついていたみたいだ。
「誰も気づいてねぇから安心しろ。」
??
「ここの女将さんが頼んでくれて近くの温泉を開放してくれてんだ。
効能聞いてみんなすっ飛んでった」
打ち身打撲、疲労回復、筋肉痛うんたらかんたら…
「みんな身体痛ぇんだな」
無理もないか…3日間で6試合。強豪校ばかり。身体の疲れだけじゃなくて神経もすり減らしてるだろうしな。
癒やしは必要だ。
「いろんな意味で元気なのはお前だけだよ。」
「ははっ、お褒めの言葉ありがとう。」
褒めてねぇよと倉持の怒号が耳に刺さる。
「腹くくったんだろ?でもな、矢代のこともちゃんと構ってやれ。」