第56章 ※ 思い出した体温
「なんだ…バレちゃった。」
パチッと目が開いて、おはよと微笑まれて幸せな気持ちに浸る。
いつまでたっても胸から手は離れなくて、朝から変な気持ちになっちゃいそうだから、なんとか離れてもらう。
御幸くんはボクサーパンツしか吐いてなくて目のやりどころをどうしたらいいものかと思い悩んだ。
「風邪引いちゃうよ?」
「舞ちゃんが暖かかったから問題ない。」
さてと、と身体を起こして着替えて朝の散歩に出かけた。
群馬の都会とは少し違う新鮮な空気をいっぱい吸い込んだ。
ノリくんと話しながらこんなことを思い出していたのは、申し訳ない。
道具の拭き上げが終わって、倉庫に片付けるのをノリくんが手伝ってくれた。
「おいおい、まさかこれからボールも磨くのか?」
「ちょっとだけね。多分明日はノースローでしょ?
その時にできるけど、流石に1日じゃ終わらないもん。」
マネージャー総出でしても時間取っちゃうし、今日はまだグラウンドにいたい気分だから、ボール磨きもやってしまいたい。
「御幸に怒られたって知らねぇからな。」
うっ…怒られるのは嫌だけど…。
ノリくんもタオルに手を伸ばす。手伝ってくれるみたいだ。
「遠征終わりだよ?早く身体休めなきゃ。」
「それは、矢代も一緒。お前が辞めないなら俺も辞めない。」
「えー、それずるい!」
何がだよというノリくんの声に釣られてかゾノくんと春市くんがやってきて手伝ってくれることになった。
「もうみんな全然休んでくれないんだもんな…」
ふぅとため息をつく。
「「それはこっちのセリフ」」「です。」
と見事な特大ブーメランが返ってきた。
楽しいな、こんな時間がずっとずっと続いたらいいのに。
やり始めたら止まらなくなって、結局全部のボールケースが終わってしまった。
「みんなありがとう。」
「小湊、お前こいつ送ってってやれや」
ゾノくんが、そう言ってくれた。
春市くんだって疲れてるはずだからいいと断ったのに、遠慮しないでいいですよと春市くんに送ってもらうことになった。
亮介先輩の近況を聞いたり、春市くんとおしゃべりするのはすごく心が落ち着く。
2年生になって落ち着き方が増した気がする。