第52章 夏に向かって
「礼ちゃん、東京選抜行くって言っておいて。
舞ちゃんにここまで言われちゃったら、行くしかないでしょ」
ニカッて笑った御幸くんは覚悟を決めた顔をしてた。
帰って紅白戦の試合内容を聞いた。
「こっちの試合も見たかったなぁ」
女子寮で御幸くんが持ってきてくれたスコアブックを見ながらそう呟いた。
「春乃ちゃんもスコア付けうまくなったよね」
「ランナーが出たら慌ててるのが、目に浮かぶけどな。こことか。」
御幸くんが指指したそこは、ヒットの記号の色が間違えかかっている所だった。
「いいじゃんそれくらい。大目に見てあげて。」
「後輩には甘いじゃん」
1年生の二人も春乃ちゃんも頑張ってるもん。
「妬けるな」
え、相手女の子だよ?
キョトンとしていると御幸くんが髪を耳にかけてきた。
「舞ちゃんの心の中俺でいっぱいにしたい。
あんなにすんなり行ってこいって言われると、逆に不安になる。
奥村の事もあるし、心配。」
自信満々で飄々としてて、意地悪な御幸くんだけど、私の事になると弱気な発言をよく聞く。
「不安にさせてた?
行ったほうが御幸くんのためになるって思ったから。私の感情だけで、行かないでなんて言えない。3日だって本当は寂しいよ。」
俯いてる御幸くんの頭を抱きしめたら、彼の手が背中に回った。
「御幸くんがチーム離れたって何も変わらないよ。
私も、チームも。御幸くんがもう一回り大きくなって帰ってくるの待ってる。」
「なんで、俺の心の中見透かすの?」
「環境が変化したら不安になるものだよね。御幸くんなら大丈夫だよ。
心配ない。絶対やれるから。あの成宮鳴に認められたキャッチャーなんだよ。自身持って。」
御幸くんが小さい子供みたいに見えた。
甘えるように私の身体に身を任せてる。
イイコイイコと柔らかな髪を撫でていたら、胸元にキスをしてきた。
前言撤回!
子供はこんなやらしいことしない。
「身体熱くなってきた。期待してる?
答えは聞かなくてもわかるけど…。顔が女の顔になってるよ」
見上げて意地悪に口角をあげた。
その意地悪な口を自分の口で塞ぐ。
まぁ、それを後悔することになる。
優位に立ちたかったのに、御幸くんの熱い舌に余裕がなくなっていく。