第5章 一年生 ⑤
取り返したと思ったのに、まだ最後まで見えてねぇとゴネる御幸くん。
なにこの状況…
御幸くんが私を押し倒してる…。
すぐそこに御幸くんの顔があって、メガネ越しに目があった。
御幸くん真っ赤だ…。
いや…私もきっと真っ赤だと思う。
「あ、あの…ちょっと…どいて欲しい…」
御幸くんのこんな顔見たことあった?
固まってる…
と、思ったのに、ゆっくりと御幸くんの顔が近づいてきて
唇が重なった。
え、なに?
なんで、御幸くんとキスしてるの?
わけわかんない。
思いっきり御幸くんを突き飛ばした。
「なんで?」
「わり…出来心…」
「さいてー…。」
そうつぶやくとひどく傷ついた顔をして、ごめん。と帰っていった。
出来心ってなに?
人のファーストキス奪っておいて、出来心?
目の前に女の子がいたら、誰にでもキスするんだ…。
休み明け、どんな顔して会えばいいの?
「おはよー、あけましておめでとうございます。」
唯ちゃんと幸ちゃんは元気いっぱい。
「おはよ。」
「うわっ、何その顔、どした?」
「ちょっと眠れてなくて…」
「夜ふかししてたなー?いつも一番に来る舞が、今日は遅かったもんね」
「ごめん、切り替える!初練習だもんね。」
「御幸!おはよ、今年もよろしく。」
「おぅ。」
「あれれ?御幸も寝不足?」
「倉持と格ゲーやってから」
「うそ、言え。とっとと眠りこけやがって、対戦できなかっただろうが」
「その後起きたんだよ。いびきがうるさくてな」
みんなが休みの間なにをしていたかで盛り上がってるのを後目に、ドリンク作ってくるねと言い残して、その場から離れた。
「今年もよろしくね、マネージャー」
「小湊先輩、伊佐敷先輩。今年もよろしくお願いします。」
「元気ないけどなんかあった?」
「いえ、なんでもないです!ごめんなさい」
ダメダメ、練習中は集中しなきゃ。
冬の練習はとにかく寒い。
ぞうきんを洗うのも、気合いがいる。
冷えきった指先を息をかけて微かな温もりで温めた。