第50章 自分の役割
目線を逸らしたら、顎クイをされてしまう。
メガネの奥の目が色気を孕んでいて、もう逸らせない。
「ダメ…」
やっとの思いで絞り出した答え。
「キスしたら、その先も欲しくなるからダメ」
御幸くんの色気に充てられて、キスだけじゃ収まらなくなる自信がある。
そんなの寮のこの部屋、いつ誰が帰ってくるかわからない状況じゃだめ。
「まさか…そんな答えが帰ってくるとは思わなかったな」
ポリポリと頬を人差し指でかいて、御幸くんも顔を紅くしてる。
「じゃぁ、久しぶりにキャッチボールしよ。」
「明日試合なのに?」
「だからだよ、マッサージしてもらったし、ガッツリ練習するわけにはいかねぇよ。
でも、このまま2人きりでいたら襲っちゃいそうだし、身体動かしときてねぇの。」
グローブを持ってナイターのついてるグラウンドに向かう。
気持ちのいい音を鳴らしてくれる。
御幸くん相手に投げられる降谷くんも沢村くんも羨ましいって思う。
「相変わらず、いいボール投げるな。ミット動かさなくていいの楽だな。」
「変化球投げていい?」
来い!と言って座ってくれた。
御幸くんが構えたのは、右バッターのインコース。
そこにカーブ、スライダーと投げ込んだ。
「ちょっと待って、舞ちゃんスライダー投げれたっけ?」
「落合コーチが投手陣にアドバイスしてんの聞こえてきたからこっそり練習してた」
「恐ろしい子。その器用さあいつらにわけてやってよ。」
気づいたらギャラリーが…。
沢村くん、降谷くん、そして倉持くん。
「ヒャハッー、面白そうなことしてんじゃねぇか。
打席立っていいか?」
御幸くんも防具とレガースをつけて、座り直した。
倉持くん振ってくるの?メットかぶってるし…。
本気で投げていいのかな?
ヤバイ!楽しい!ワクワクする。
この感じ久しぶり。
倉持くんの苦手なコースに投げ込んで、ファールで粘られた。
流石だなぁ。
だんだんとストライクゾーンが狭くなるように感じる。
低めの変化球を引っ掛けてセカンドゴロ。
けど、倉持くんの足なら確実に内野安打。
「見たか、降谷、沢村。
コントロールだけでも充分にバッターと勝負できる。」