第43章 良薬口に苦し
あの学校のこの曲がかっこいいとか、いやいやこっちのこの曲がいいとか
定番の曲から攻めた最近の曲までいろんな曲名が出た。
「矢代は何か好きなんだ?」
「SEE OFFとかが昔から好き。」
「却下。真田のヒッティングテーマだろそれ。」
ありゃ…禁句だったかな…
トーンが下がった声で却下って言われちゃった。
「まさか真田のやつ、舞ちゃんが好きな曲だから自分のヒッティングマーチ決めたとか?!うわーー、地味に腹立つ!」
「地雷踏んだのお前なんだから、なんとかしろよ…」
ムキーーってなってる御幸くんに憐れみの視線を送りながら倉持くんは私の肩を叩いた。
兄貴と俊平と3人で夏の甲子園を見ていた時、SEE OFFがテレビから聞こえてきて、この曲かっこいいってはしゃいだ事はあったけど、俊平がそれを覚えてて自分のヒッティングマーチにするとは思えないんだけどなぁ。
小学生の時の話だし。
「好きな子がかっこいいって言ったものって案外覚えてるもんだけどな。」
わーーん、どうしよう…どうしたら御幸くん機嫌直してくれるんだろう…。
「うそ。そんな困った顔しないで。
意地悪した。迷わずSEE OFFって言ったから。少し妬いた。」
「無神経だった…ごめん。」
お正月、自分が御幸くんの幼なじみにヤキモチ妬いて、気をつけようって思ったばかりだったのに。
「私が好きなのは御幸くんだから…」
「舞ちゃん…ほんとそういう所だからな!不意打ちは勘弁して。」
御幸くんはそのまま机に突っ伏してしまった。
隠せられてない耳は真っ赤。
「俺…自分がこんなに器の小さいやつだとは思わなかった。
小さいことでヤキモチ妬いて、舞ちゃん困らせて。どうしようもねぇよな…」
「それだけ私の事好きって思ってくれてるって事でしょ?嬉しいよ?」
私も御幸くんに来るファンレターや他校の女の子からキャーキャー言われてるのを見るとなんとも言えない気持ちになる。
御幸くんは私の彼氏なのにって…かわいくないこと思っちゃう。
御幸くんが上手にフォローしてくれるから、そう思うのは一瞬だけど、私は御幸くんを不安にさせてばかりなのかもしれない。