第40章 ※ 御幸の気持ち ➅
ゴロゴロしながら、メッセージのやり取りを舞ちゃんとしていると父さんが帰ってきた。
手には何やら、小さい箱を持っている。
「彼女なんて連れてくるの初めてだから、何を買ったらいいか
わからんかった。」
中を見るとプリンが2つ入っていた。
父さんが若干浮かれている…。
プリンなんて買ってきたことないくせに。
どんな顔して買ったのかと想像すると少々笑えてくる。
「ありがと。」
「こういうことはもっと前から言っとけ。」
はいはいと返事をして夕食の準備をした。
「あけましておめでとう。」
「今年もよろしく。」
駅に迎えに行くと舞ちゃんが大荷物で待っていた。
「お母さんたちがね、あれもこれもって持たされたの。私に彼氏ができて浮かれているんだ。
こんなに迷惑だよね?」
「うちも似たようなもんだ。朝からソワソワして落ち着かねぇの。」
迎えに来てよかったと思う。
これは一人じゃ大変な量。
荷物を自転車のかごに押し込んで、二人乗りをして自宅に向かう。
工場の物陰から、数人こちらをチラチラ覗いていた。
「元旦から何やってんだよ。」
「いやぁ、社長が一也が彼女を連れてくるって慌ててたからさぁ。気になっちゃって。工場休みだけど来ちまったよ。」
数人いた中のシゲさんは、御幸スチールの従業員の古株中の古株。
俺のことを息子みたいに可愛がってくれてる。
キャッチボールもこの人に教わったくらい。
「はじめまして。矢代舞です。」
深々と頭を下げる舞ちゃん。
ゆっくりしてけー。いつでも遊びにおいで。
可愛い子じゃないか。
口々に喋りだすから、舞ちゃんがワタワタしている。
俺達の話し声に痺れを切らした父さんが、寒いんだから上がってもらえと玄関を開けながら言った。
「じゃぁな、一也。彼女の事大事にしろ。」
「わかってるよ。」
緊張がピークに達してる舞ちゃんは、スーハーと深呼吸をした。
さっきと同じように自己紹介をするが声がうわずってる。
普段寡黙な父さんが表情を和らげてどことなく嬉しそう。
父さんが買ってきたプリンを美味しそうに食べる姿を見て完全に顔が緩んでる。
シゲさんたちが再びやってきて、菓子やらジュースやらを差し入れてくれて父さんを新年会に連れ出した。