第37章 御幸の気持ち ③
完治のお墨付きが出て久しぶりにグラウンドでバットを振った。
やっぱこっちがいいや。
3週間ボールを触れなかった時間も無駄ではなかった。
野球が楽しいって思える。
「イキイキしてるね。」
練習ではやり足りなくて舞ちゃんにTバッティングに付き合ってもらう。
こうやって自主練に付き合ってもらうのも久しぶりだな。
「久しぶりに寮まで送らせてよ。」
「いいの?練習で疲れてんじゃない?」
「いいのいいの。俺がもう少し一緒にいたいから。」
ありがとうって笑った舞ちゃんにお礼が言いたいのは俺の方。
制服に着替えてきた舞ちゃんはパタパタと走ってきた。
「うぅ…寒くなってきたねぇ…」
手を擦り合わせながら自分の息を吹きかけていた。
「コートはまだ早い気もするけど、上着は来たほうがいいと思うぞ。」
ほれ、とウインドブレーカーを着させてあげた。
「へへ…実はこれ狙ってました。
実家からまだ冬物来ないんだもん。取りに帰ったほうが早いかな。
それに、御幸くんのおっきくて、制服の上から着てもすっぽりだから楽ちんだし、それに…
御幸くんのニオイがしてなんか…好き。」
ったく…この子は…
サラリと嬉しくなる事を言ってくれて…
狙っていってんの?って疑いたくなる。
「風邪引いてからじゃ遅いんだぞ。」
「御幸くんが世話焼いてくれるから心配してない。」
上着でもなんでも貸すし、なんならあげてもいい。
ただかわいいこと言って悶えさすとこはやめてくれ。
12月に入っても手袋をしないで帰ろうとする。
訳を聞いたら「手、繋げなくなるじゃない?」と…
またそんなことを…。
送り届けて自分の部屋に帰るとルームメイトも引くくらいの速さでベットに潜り込む。
自分の彼女が可愛すぎるのも問題点だと悶々としていた。
「おーおー、キャプテン。
また悶てんのか?!全国のファンが見たら泣くぞ。
ほら、ファンレター。」
なぜお前が持ってくる。
礼ちゃんにでも頼まれたか。
舞ちゃんがいない時に持ってきてくれるのはありがたい。
彼女はそれくらいじゃ妬かないだろうけど、嫌な思いはさせたくなかった。