第3章 一年生 ③
「舞ちゃんのこと、よっぽど可愛かったんだな」
「恥ずかしいよね。両親から、お前が妹を守るんだぞって言い聞かされて育ったから、ヒーローにでもなったつもりだったのかも。
歳一緒なのにさ。
てか、その話、子供の時の話だから!5歳で卒業しました!!」
御幸くんに何話してんだ…ほんとに。
「双子の妹って特別だったんだろうな。
野球を諦めた妹の為に、自分が甲子園に連れていく。それには俺とバッテリー組まなきゃ道はないって。
そう言われた。」
「だから、俺があいつの分も舞ちゃんを甲子園に連れてってやる。約束。な?」
小指を出してきて、指切りをした。
「御幸くん、ありがとう。」
「だから、チームの事頼むぞ」
「うん。」
私にできることなんて限られてる。でも、精一杯やるしかない。
「Happy Birthday!!」
「な、何?!」
「びっくりした?!」
朝、練習に行く前の御幸くんの部屋の前でスタンバっていた
一個だけクラッカーを鳴らして、おはようよりも早くにHappy Birthdayって伝えた。
「おはよう。」
「はよ。びっくりしたって…」
「サプライズ成功!はい、これ。誕生日プレゼント」
「舞ちゃんが俺に?!貰えると思ってなかった!」
なんでよ。私も貰ったし、ちゃんとお返しはするよ?
ガサガサと音を立てて包みを開いていく。
「マグカップ!」
「割ったって言ってたし、買いに行く素振りもなかったから、私の趣味で悪いんだけど、よかったら使って!」
「サンキュー、使わせてもらう。」
良かった、喜んでくれた。
グラウンドまで並んで歩く。
朝は随分冷え込むようになった。
「舞ちゃん」
「ん?」
ズボッとネックウォーマーを被せられた。
「首が寒そうだから、それやる。」
「でも、それじゃ御幸くんが…」
「俺はみんなから新しいの貰ったし」
なんだ、みんなちゃんとプレゼント用意してたんだ。
たぶん倉持くんの発案だよね。
「良かったね」
「嬉しいもんだな」
「御幸くんが素直だ…雪、降るかな」
「なにをぅ…」
首元が暖かいのは、ネックウォーマーだけのおかげじゃないと思う。
御幸くんがくれたものだから、余計に暖かい。