第30章 鵜久森戦
バスに乗って球場に着いても、雰囲気は悪かった。
ほとんど会話はないし。
大丈夫かな。
初回いきなり3ランを浴びて先制される。
守備が終わって帰ってきた御幸くんはナベちゃんに向かってゴメンなとサインを送った。
ナベちゃんは大きな声で大丈夫だよ、これからだと声援を送った。
ナベちゃんと目が合ったら、彼はちょっと嬉しそうに微笑んだ。
「さ、こっちも負けずに声出して応援しよ!」
「まだまだ初回だもんな。」
御幸くんが粘って粘って、ウイニングショットの縦のスライダーをセンターに。
御幸くんはプレーでみんなに示したんだ。
ナベちゃんとハイタッチをして、ゾノくんにエールを送る。
続いてヒット!
御幸くんとゾノくんがハイタッチを交わしているのがスタンドからでも見えた。
「大丈夫そうだね。」
「安心したよ。」
自分が原因でチームの雰囲気が悪くなってしまったことをナベちゃんは気にしていた。あのタイミングで御幸くんに話しにいかなければよかったって悔いていたから。
わだかまりが少しでも溶けてよかったと心から思う。
今日の御幸くんは何か違う。
すごく集中してるし、読みも冴え渡っているみたい。
ライトスタンドに2ランを叩き込んだ。
「すごい…」
ナベちゃんの驚きの声が聞こえてきた。
少し前まで、得点力不足に悩んでいたとは思えない打線だ。
昨日とは打って変わって御幸くんがすごく大きく見えた。
降谷くんの打席が終わってからなんとなく違和感を覚えた。
「どうした、難しい顔して…」
「足…気にしてるなって思って…」
「だれが?」
「降谷くん、右足。」
1塁ベースを駆け抜けた時かな…。
「ヒットは打たれたけど、特に痛そうな素振りしてねぇよな?」
「でも、肩で息してる。」
「スタミナないのはいつものことだろ?気にしすぎだって。」
工藤くん、東尾くんが言うなら、きっと私の気のせい。
この回無失点で切り抜けたのは、御幸くんの盗塁阻止と春市くんのファインプレーがあったから。
三振は一つもなかったのが妙に気になった。
打たせて取るピッチングに切り替えたのかな…。
そんな器用なこと出来た人だったっけ?
失礼だけど…。
「な、言ったろ?気にしすぎだって」
「うん、そうだね…」
あと2回…。がんばれ…。