第23章 御幸の気持ち
今まで舞ちゃんに付き合ってもらっていた自主練を素振りに切り替える。
チャンスでしか打てないなんて、もう言わせねぇ。
これからは、ランナーがいなかったら、俺がこじ開けてやる。
「らしくねぇ事してんじゃねぇよ」
らしくねぇってなんだよ。
キャプテン自体がそもそもらしくねぇよ。
「矢代の事、諦めんのか?」
「諦めてたまるかよ…でもな、今はそっちに気を取られてる場合じゃねぇんだ…新チームの土台作りしっかりやんねぇとな」
チームにとったら今が一番大事な時。
「お前の覚悟はわかったよ。俺も付き合ってやるかー」
マスコットバットがブンと音を立てて空を切る。
哲さんは毎日500回振ってたって言ってたっけ。
ほんと…すげぇよ…
汗だくになって素振りを終えたら、倉持が俺を呼んだ。
「これ、矢代からじゃねぇの?」
ボトルに入ったドリンクとおにぎりが2つずつ。
いつ来たのか、そこに置いてあった。
蓋をした気持ちがあふれ出しそうになる。
おかかと梅干し。いつだったか、リクエストしたおにぎりの具。
ご丁寧にラップに中身がかわいい字で書いてある。
猫だか犬だかわからない謎の生き物がファイトとふきだしの中で言っていた。
「矢代、絵下手くそだな…」
「こらこら、文句言うなら食わなくてよろしい」
食うよ!とパクパク食べ始める倉持。
俺も一口いただいた。
「くそ…なんでこんなに美味いんだよ…」
距離を取ろうとすればするほど、今までどれだけ彼女に支えられてきたか実感する。
ランニングを終えたノリにお疲れ様って声をかけた舞ちゃん。
「さぁさぁ、ストレッチしよ」
「えー、いいよ。」
「ダメダメ、足パンパンでしょ
いーから、そこ寝て」
下半身を重点的に、念入りにストレッチをしている。
「ゆっくり息はいてね」
はい、おしまいとノリの背中をポンポンと叩いた。
「うわ、なんだこれ
すげえ、身体軽っ」
「よかった!今日の夕飯は唐揚げだって
食堂のおばちゃんが言ってた」
「そっか、ありがとう
助かったよ」
「お疲れ様。あと、やっとくからゆっくりして」
グラウンドから上がっていくノリの名前を大声で叫んだ。
「笑顔だよ、笑顔」
ノリの気持ちがまだ後ろ向きなのを悟っているみたいだな。