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ダイヤのA 御幸一也

第22章 約束


3年生の荷物がなくなってガランとした部室。
寮の部屋はもっと寂しいんだろうな。
頼れる先輩たちがもういないんだって思い知らされた。

早くも部室を片付けて行った先輩達。

マネージャー達で掃除をしたこの部室を眺めてどれくらい時間がたったのかな。

ロッカーのネームはすべて外されて、中身も入ってない。

「こりゃまたスッキリしちゃったな…」

「御幸くん…」

整列の時、涙を流していなかったのは、哲先輩と御幸くん。
歯を食いしばって懸命に堪えてる姿が目に焼き付いてる。


でも、今の御幸くんは目が少し赤い。

「目、腫れてる…」

「御幸くんだって赤いよ…」

「参ったな…。舞ちゃんには、すーぐ見抜かれる…」

部室にある机の上に浅く腰掛けて、力なく乾いた笑いを見せる。
「ちょっとこっち…来て…」
涙声の御幸くんに手招きされて、言われるまま御幸くんの前に立つ。

「ちょっと…ごめん…」

最初は遠慮がちに、御幸くんは私を腕で包み込んだ。

その大きな背中に自分の腕を回して、背中をトントンとすると御幸くんの腕には力が篭る。

頑張ったよ…とか
惜しかったね…とか
来年頑張ろう…とか

そんな言葉、今のこの人にはかけられない。
先輩たちと野球がもうできない。
これが高校野球。


目の前で、同点、逆転のホームを踏まれて…それを見届けなきゃいけない。

悔しいなんて簡単な言葉では済まされないだろう。
キャッチャーって残酷なポジションだ。
打たれたらキャッチャーのせい。
勝ったらピッチャーのおかげ。

これが世間の評価。

でも、それが面白い。
キャッチャーしか見えない景色が俺はすごく好きだといつか御幸くんが言ってた。


肩口に顔を埋めながら、身体を小さく揺らしながら泣いてる御幸くんの背中を撫でるしかなかった。

こんな弱ってる御幸くん見たことない。
いつも強気で、頼れるキャッチャー。
初めて見る人間味がある姿に腕に力が入る。


一頻り泣いて、御幸くんは顔をあげた。

「泣くのは、これで終わり!
次!舞ちゃんな」

「え?私?待って待って。選手と同じ土俵でなんて泣けないよ。泣いちゃいけない。」

「なんで、そんなこと言うんだよ。
選手の他に誰よりも応援してくれていたのは、マネージャーだろ?」

御幸くんが力強く言い切った。
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