第20章 あと2つ
稲実の試合の映像を徹底的に見直す。
どこか付け入る隙がないか、何度も何度もチェックした。
クリス先輩もやっているだろうけど。
明日、投手陣がデータ見るだろうし、それまでになにか見つけたい。
そう意気込んだけど、何度目かわからなくなるくらい見て、疲れてしまう。
机に突っ伏して少し休憩を…と思った。
眠りに落ちていくのは早くて、目を閉じて数秒だった。
パチッと目が覚めた時、奇声を発してしまった。
一人だったはずなのに、御幸くんが同じように突っ伏して、顔だけこっちを向けて見てた。
「スゲェー声。でも、シーッな?みんな寝てるから」
「いつからいたの?」
未だにドキドキいってる心臓に手を当ててなんとか落ち着こうとした。
「10分くらい前かな。気持ちよさそうに寝てるから、起こすのかわいそうになっちゃってさ。
寝顔もかわいかったし、眺めてようかなーって。」
ニヒヒと笑う御幸くんがいたずらっ子に見えるんだか…。
「ばか…」
寝顔見られて恥ずかしい…。両手で顔を隠した。今更遅いんだけど…。
「にしても…ヤバイな。これ。毎度毎度驚かされる。」
ソロリと顔を上げて、御幸くんを見るとまとめた資料を1枚1枚捲りながらそう言った。
「初戦から各打者のコース、球種それぞれの打率に、鳴の各コースのストライク率か…」
「それ、使えるかわかんないけど、なんかやってないと、おかしくなりそうだったから。
その日その日の調子にもよるし、アテになるか自信ない。」
「そのデータを元に、キャッチーの俺がピッチングを組み立てる。
おもしれー。参考にさせてもらう。」
御幸くんの言葉が嬉しかった。必要とされてるって思える。
でも、ちょっと照れくさい。
スッと腕が伸びてきて、御幸くんの胸元に引き寄せられる。
「舞ちゃんのチームを思ってくれるこの想い、俺がグラウンドに持っていく。
一緒に戦おうぜ」
頭の上から降ってくる御幸くんの落ち着いた声。
「こんな時間まで何度も映像見て、計算して、寝不足でクマ作ってるマネージャーのためにも、やってやんねぇとな」
頬に手が添えられて、目元のクマを親指でなぞられる。貴子先輩みたいに感激して涙が溢れた。
「泣くのは優勝してからにしな。」
なかなか泣きやまない私を御幸くんは腕の中に閉じ込めて、落ち着くまで背中を撫でてくれていた。
