• テキストサイズ

【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第4章 急―御手柔らかに―


佐助は「お帰りなさいませ」とまず言い、「さん、一時中断しよう。せっかく謙信様がお帰りになったんだから」とあっさりと手を離す。
も何事も無かったように両手を離し、謙信に笑いかける。
「お帰りなさい、謙信様。声もかけずに乱暴に開けたので驚きました」
確かに、障子は勢いよく開け放たれたせいで一尺程跳ね返ってきている。
「悠長に挨拶をしているな。お前達は何をしている?」
二人の呑気な様子に謙信は一度小さく息を吐いて自分の感情を落ち着かせる。
「これは「腕相撲」という単純な遊びで、ただの力比べですよ。俺も子供の頃以来してなかったので久しぶりですが、最近たまにさんとしているんです」
悪びれも無く説明するのは、文字通り悪い事ではないからだろう。
「悩ましい声が聞こえたが?」
怪しむ事は無かったと理解は出来たが、今一つよく分からない。
「そんな風に言わないでくださいっ!私も必死なんですから!」
謙信の指摘には心外だとばかり抗議し、「悩ましい」と言われたのを恥じらって初めて頬を染める。
「謙信様、早とちりで殺さないでください。俺とさんは何もやましい事などしていません。そんなつもりがあっても謙信様のお部屋近くの客間でなんて恐ろしくて出来ませんよ」
淡々と言うが、まるでその気があれば違う場所を選ぶと言っている様にしか聴こえない。
「佐助君もそんな言い方しないでってば!」
の抗議に佐助は小さく笑って「ごめんごめん」と言う。
「えっとですね」
が部屋の奥隅に重ねてあった座布団を一枚持ち上げて謙信の座る場所を用意しながら説明をする。
「私も佐助君も五百年後から来たわけですけれど」
「ああ」
表情は不機嫌なまま座布団に腰を下ろす。
「以前いた世界に比べてこちらの世界では力仕事というか、身体を動かす機会が増えたので私も力が付いたという話を佐助君にしたんです。それで、佐助君もそうだと言って、二人で「こちらの世界では健康の大事さが身に染みるね」って話してたんですが。それで腕相撲を思いつきまして、たまにこうして佐助君に挑んでいるんです」
「……何となく言いたい事は理解したが、それで何故お前が佐助の手を両手で握りしめているんだ?腕相撲?」
眉を顰めて問う。
切れ長の目が鋭いまま不機嫌を物語る。

/ 47ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp