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【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第3章 破―犬も喰わない―


「そういう事は迂闊に謙信様に言っちゃ面倒だよ。そりゃド定番ではあるけれど、実際的にどうかといえば微妙なところだし。……謙信様、さんの言う挨拶は通過儀礼みたいなものです」
「……通過儀礼?」
怪訝な顔をする謙信に、も首を傾げる。
「はい。恋仲であれ夫婦であれ、想う相手と住処を共にするというのは何時の時代でも特別な節目です。そういう意味で、親しみを込めてそういう挨拶をする事がままあるのですが、いつまでもする男女はあまりいないと思いますよ。最初の頃だけで、段々と馴れて飽きるものです」
は佐助の簡潔な説明に感心する。
「佐助君、本当に人に物事を説明するのが上手だね」
「研究発表に比べたらどうってことないよ。要するに定義を説明するだけだから。……謙信様、さんは「これから共に暮らせて嬉しいですね」という気持ちで挨拶しただけです。さんが他の誰かに男女問わず同じ挨拶をして回るなどあり得ません。特別な相手に特別な挨拶をしただけです」
佐助の説明に謙信はようやく納得し、「その説明なら分かる」と険しい表情をすっかりおさめる。
「しかし、それならそれで何故飽きる?」
「……まぁ、共に暮らすのに慣れると、徐々に浮かれた気持ちも落ち着くからじゃないでしょうか。概ねの場合は。ですが、気が済むまで続けていいんですよ。そういう老夫婦もいますから。誤解が解けたならお急ぎください。遅れた理由が痴話喧嘩だと、信玄様にばれてしまいますよ」
淡々と言う佐助に謙信は手を振る。
「煩い。今行く」
もう一度の頬に触れ、バツが悪そうに微笑む。
「帰ったら、今度は俺がする」
「はい。お待ちしていますね」

今度こそ無事送り出し、は思わず溜め息まじりに小さく笑ってしまう。
佐助にも迷惑をかけてしまったが、ちょっとした悪戯心でせわしない朝になってしまった。
けれどこんな長閑な喧嘩なら、そう悪くないかもしれないと思うのだ。
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