第6章 和泉守兼定 優しい兄ではいられない・:*+.
準備を終えて、時空移転装置で江戸へと向かう。
江戸城には人気が無くなる酉の刻に向かうことにした。
(※酉の刻…17時〜19時ごろ。)
江戸は何度も出陣している俺の方が詳しい。
主が好きそうな反物や雑貨の店に連れていってやると、とても喜んで無邪気にはしゃぐ。
その姿に俺はどうしようもなく嬉しくなる。
二人で出かけたことは何度もあるが、今日は恋人の逢引のようで心が浮き立っていた。
「兼さんこの反物かわいいね。でもこっちの色味も素敵!どっちが良いかなぁ…」
「淡い東雲色(しののめいろ)の方があんたには似合うな。こっちにしろよ」
「わー!繊細で綺麗な簪がいっぱい!牡丹がいいかな?桔梗も綺麗だなぁ….」
「あんたには…」
「っドン!!」
その時、遠くの方で爆発音が聞こえ、町人の悲鳴が響き渡る。
「っ…兼さん!!」
「江戸城の方からだな。いろは俺から絶対に離れるなよ!」
陽が沈み、闇に溶けていく町。
俺はいろはの手を引き、江戸城に向かって走った。
よく見ると江戸城の倉庫から火の手があがり、逃げ惑う人たちで騒然としていた。
「おい!何があった⁈」
「分からない…!いきなり人ならざる物が現れ、城の倉庫に火を放った!」
城の使用人と思われる男は、それだけ告げると負傷した脚を引きずり逃げていく。
「人ならざる者⁈それってまさか…!」
私たちは顔を見合わせる。
「時間遡行軍!?」
その瞬間、いろはの顔つきが変わる。
「兼さん。審神者として和泉守兼定に時間遡行軍の追跡及び、撃破を命じます。」
「任せな!いっちょやってやろうじゃねぇか!」
「私は負傷者を誘導する。おそらく時間遡行軍の狙いは、徳川家康の歴史改変。
深追いはせず五振り以上の敵を見つけたら必ず撤退して。…兼さん絶対に無理はしないで?」
「承知した!」
不安そうないろはの頬を優しく撫で、俺は江戸城に向かって駆け出す。