第6章 和泉守兼定 優しい兄ではいられない・:*+.
「しかもさぁ。あんなに可愛くてみんなから愛されてる主が、いつまでたっても和泉守だけを慕ってるなんて思ってちゃだめだよ?」
そう言って清光は去っていく。
なんなんだあいつ⁈
主の愛刀になる?無理に決まってんだろ。
主が一番頼りにしてんのは、昔も今もこの俺なんだよ!
もやもやした気持ちのまま遠征に向かった。
「今日の遠征は粟田口の面々と安定か…」
俺たちは資源収集を終えて、江戸の町を視察していた。
その時、一際賑わっている和菓子屋を見つけて、乱が興味津々に走っていく。
「こら乱。勝手な行動はいけないよ?」
一期一振が声をかけるが、乱は目の前の甘味に夢中だ。
一期は「弟がすいません…」と困ったように笑い、俺を伺うように見る。
「かまわねぇよ。まだ時間もあるし、気になる物があったら言えよ。」
「わーい!ねぇいち兄!あるじさんにお土産買って帰ろうよ!」
「そうだね。そうしようか。」
「うーん…あるじさんは羊羹か最中どっちが好きかなぁ?」
「大将には羊羹がいいんじゃないか?」
ふいに粟田口が集まり話す声が聞こえる。
主は最中が好きだ。特に栗入りがな。
俺は心の中で呟いた。
「主は栗入り最中がお好きだよ」
「っ!」
ふいに発された一期一振の言葉に驚く。
「…よく知ってるな?主から聞いたか?」
俺は少し思案するように尋ねる。
「いち兄はあるじさんととっても仲良しだもんねー!最近も一緒に甘味処に行ってたでしょ」
「あはは。そうだね。主とは好みが似ているみたいなんだ。」
嬉しそうにほほえむ一期一振。
「あるじさんといち兄が結婚してくれたらさ、僕たち本当の家族になれるね!」
和気あいあいと楽しそうに話す粟田口。
なぜか心がきゅーっとなって、不快な何かが押し寄せてくる。
今までずっと主の一番そばにいる刀剣は俺だと思って疑わなかった。
ふと他のやつらと仲良くしてる姿を想像するとなぜか無性に腹が立つ。
俺は主の"兄"なのに….。
"いつまでたっても和泉守だけを慕ってるなんて思ってちゃだめだよ?"
今朝、清光に言われた言葉が頭によぎる。
この気持ちの正体が分からず、戸惑いながら本丸へ戻った。
遠征から戻ると一期一振はお土産を持って審神者部屋に向かった。
俺は自室に戻ったが、なぜか気持ちが落ちつかず道場で鍛錬をすることにした。