第14章 きみは手のひらの上 罪と罰❄︎【善逸・無一郎】
「…雪柳さんに好きな人がいたなんて…」
俺はまるで地獄の底に落ちたかのような心境だった。
俺が雪柳さんを好きだと気付いたのは、ちょうど一年ほど前だった。
それは雪柳さんの両親が不慮の事故で亡くなったとき、普段人前で泣かない雪柳さんは嗚咽を漏らしながら涙を流しているのを見たときだった。
普段笑顔しか見せない雪柳さんの弱った姿…泣き顔を見たときに本当に恋に落ちたのだ。
恋に落ちた日から、なにかあると雪柳さんに泣きつくようになった。
元々、幼馴染だったし不自然ではなかったけど、俺にはもうひとり、恋敵がいるのだ。
それは俺の家の隣に住む時透無一郎だ。
雪柳さんは俺と無一郎の家の向かい側にある家に住んでいて、無一郎の双子の兄である有一郎も幼なじみだ。
双子は雪柳さんを"椿姫お姉さん"と読んでいる。
よく懐いているのは無一郎だけど、いつ有一郎も雪柳さんを好きになるか気が気じゃない。
そう頭の中で思っていたとき、一番会いたくないヤツに会ってしまった。
「ねぇ我妻さん」
「げ…」
そう、無一郎だ。
雪柳さんがいると可愛こぶって"善逸お兄さん"なんて呼ぶが、普段は"我妻さん"と呼んでくる。
14歳の中学生だとしてもお互いが恋敵だ。
馴れ合いはしたくないのだろう。
「さっきひとりごとで言ってた"椿姫さんに好きな人がいる"ってなに?」
無一郎は光が消えた瞳で俺を見据えた。
俺は黙っていることも考えたが、知らない男に雪柳さんを渡したくないと思い、聞いたことを洗いざらい話した。
「…ふーん、そっか…」
無一郎は黒い笑みを顔を浮かべると、
「ねぇ、"善逸お兄さん"。僕と手を組まない?僕たちに椿姫さんの気持ちを向かせようよ」
そう言うと、無一郎は自分の考えを俺に話した。
全部言い終わると俺に右手を差し出し
「どうする?このまま椿姫さんを諦めるか、椿姫さんを想い続けるか」
俺は迷うことなく無一郎の手を取り
「…諦めることなんかできないよ」
そう言うと、無一郎は不敵な笑みを浮かべた。
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