第10章 藤の花のかおり【冨岡義勇】
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わたしは稀血のために藤の花の匂い袋を身につけ、藤の花から抽出した香油を使うのはいつものことだった。
わたしが稀血のせいで両親は鬼に殺された。
鬼への復讐のため、わたしは鬼殺隊に入隊し、鬼の頸を斬ってきた。
そうしてわたしは柱にまで上り詰めた。
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心地の良い風が頬を撫でると、ふわりと香る藤の花の香り。
「…藤の花の香り」
俺はぽつりと呟いた。
そういえば誰か藤の花の香りを纏っている者がいたな、とぼんやりした頭で思い出そうとするが、誰だったか思い出せない。
任務が終わり帰路に着くと、先ほどまで考えていたことは割とどうでも良かったらしくいつの間にか忘れていた。
屋敷に近くなるとその足の速度を落とし、歩いて屋敷に向かう。
すると、向かいから歩いてくる人影が見えた。
すぐに向かい側にいる人物の顔が暗くともほんのりと見えるくらいまで近づくと、
『あら、冨岡さんでしたか』
聞き覚えのある声と共に、ふわりと藤の花の香りが漂う。
視線をそちらに向けるとそこには、白い羽根の烏を肩に乗せて微笑む雪柳が歩いて来た。
「あぁ、雪柳も任務だったのか」
『はい、終わったので帰るところですよ』
雪柳は白い烏の羽根を撫でると、
『では、わたしはこれで』
雪柳は俺の横を通り抜けようとするのを、俺は遮るように雪柳の腕を掴んだ。
『きゃぁっ!?え、あの…冨岡さん…?』
後ろに腕を引かれてバランスを崩しそうになりながらも、それに耐えた雪柳は戸惑いつつも振り返り、俺の顔を見た。
俺は考えるよりも先に口が動いていた。
「…稀血だったな。遅い、今日は俺の屋敷に泊まるといい」
そう言うと、腕を掴んだまま雪柳を引きずるように屋敷に向かって歩き出すと、雪柳は慌てたように声をあげる。
『えっ!?あ、あのっ!冨岡さんっ!?わたしは大丈夫ですから!』
抵抗するように手を離そうとするが、力の差は歴然でそのまま屋敷に連れ帰る。
『あのっ!冨岡さんっ!わたし、これでも柱なんですけど!』
雪柳は後ろで声をあげていたが、俺はひとつひとつに返事をすることはせずに
「あぁ、知っている」
そう言うと、そのまま玄関の扉を開けた。
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