第2章 弐.尊い命
ーーーー…「わ、…不死川!」
「あァ?」
「またここで寝てたんですかぁ?」
「ド派手なアホヅラだな」
「そのだらしないよだれを拭け汚い甘露寺に見せるな」
「なんだお前らも来たのかァ」
と煉獄が起きないまま、6回も夜が明けた。
今日は7日目になる。
任務や鍛錬以外はここにずっといるせいで、みんな俺の分の手土産を持ってくるようになってしまった。
そして皆も任務や鍛錬の合間に顔を出している。
目を覚まさなすぎて怖ェ。
容態が安定してるとは言え、このまま目を覚まさないんじゃないかと考えない夜はなかった。
その点皆が顔を出してくれると、雰囲気が明るくなって助かった。
「今日はパンケーキを作って持ってきました!
みんなで食べてたら羨ましくて起きるかも!」
「甘露寺が目ぇ覚まさなかったらこうやって囲ってみんなで飯食えば起きるってことだな。
甘露寺なら本当に起きそうで怖ぇけど」
「おい不死川、お前少しやつれたな。
甘露寺特製ぱんけぇきとやらを貴様らが食べるのは気に食わないが、少しは食べた方がいいな」
3日目くらいまでは余裕だった。
そろそろ起きるだろうと思って毎日ソワソワしていた。
起きたら何を言ってやろうか……。
いや、胡蝶姉妹に散々怒られるかもしれねぇから俺は優しくしてやるか、とか、そんなことを考えて目が覚めるのを待っていた。
そこからは焦りだった。
なんも言わねぇし何も望まねぇから普通に会話をしたい。
いつもみたいにからかってくれても構わねぇ。
甘味処に行って目を見てきちんと話がしたい。
少し前の自分を恨んでいた。
言いたい事が明日言えなくなるかもしれないというの言葉を聞いて、素直に大事に思っていることを伝えればよかったと。
起きてくれないとこんなにもツラい。
いつの間にか時間が合えば一緒にいるのが当たり前で、そんな事にも気付けなかった自分が腹ただしいと思った。
生きててくれて有難ぇが、意識がないのはまた別の話だ。
「はい不死川さん」
「……うめぇな」
「あめぇ……」
ふわふわな生地に、じゅわっと染み込んだメープルシロップとバターのあまじょっぱさがたまらなかった。
「こりゃが喜ぶなァ」