第1章 壱.一目見たその時から
伊黒の生い立ちを以前三人でいた時にチラッと聞いたことがあった。
だからと伊黒、煉獄と甘露寺の面識があるような態度に、後から納得した。
と伊黒の似ている境遇から、元炎柱に助けられ一緒に屋敷にいた時には仲良くなるのも早かったそうだ。
その際に俺の昔話もした。
玄弥が鬼殺隊に入ったと聞いた時には死ぬほど腹が立ったしな……。
甘味処に着くと、甘露寺に教えてもらったと嬉しそうに慣れない名前の物を食べていた。
「カステラ、美味しいですよ?食べてみます」
あーん、と差し出されそのままパクッと口にする。
確かに下のザラメがふわふわの生地と相まって絶妙だ。
「抵抗なく食べるんですね」
「甘いのは嫌いじゃねぇからなァ」
「違う、あーんって」
「……あ」
「んふっ」
「笑うな」
気付いた時には、思わず顔に熱が上がってしまった。
それを見て余裕そうに笑う。
店主もこちらを見てホワホワしてやがる。
「わたし、実弥さんのそういうとことっても好きですよ」
「あ!?」
「こんな見た目で常識人だし、優しいし、わたしに過保護なところも、どういう気持ちかは知りませんけど、わたしは嬉しいと思ってるんです。
小芭内も煉獄さんも家族のように大事にしてくれるし…宇髄さんや実弥さんのおかげで妙に浮かずに今の立ち位置でやってこれてるなぁって」
柱のみんなに出会えてから変われたと話す。
確かに初めて会ってから2~3年の月日が経ち、人間味が出てきたというか、笑う回数も増えたように思える。
なんだ、そういうことを言いたかったのか。
無駄に心臓が早くなったじゃねェか……。
「こんな仕事をしてるし、急にお別れが来るかもしれないじゃないですか。
言えるうちに言いたいことを言っとかないとって」
「そうだなァ…」
……俺は実はお前のことが気になってるって、言うか?
初めて会ったあの日から、気になってしょうがねェって。
そんなこと言ったってな……。
というか俺は好きなのか?こいつを。
興味本位のはずじゃなかったか?
「何難しい顔してるんですか?行きましょ」
その言葉に遮られ、思考をやめた。
甘味処を出て、風に揺られる髪の毛、その後ろ姿、それを見て思う。
どんな形であれ一緒にいれればいい、と。