第1章 生殺しの蛇は人を咬む
するすると甘えるようにかさついた褐色肌の手が制服に包まれたユウの肩から背を撫で繰り回す。異国情緒あふれる香辛料と香が混ざった香りがふわりと薫った。
「…充電、まだかかりますか?」
返事は言葉で返ってこず、ぐりぐりと肩口に押し付けられる形の良い額が返事をする。ストレス軽減に効果があるハグをジャミルに試した結果、二人してハグがクセになってしまい、ストレスが限界になる前にどちらともつかず人目は気にするものの相手に抱きつくようになった。
ユウは仕返しと言わんばかりに細身でありながらしっかりと筋肉のついた胴に腕を回し、背骨に沿ってつつつ…、と指を滑らせた。
「擽ったいからやめてくれ…」
「はぁい。それにしても先輩背中凝ってますね。」
素直に頷いて、背中を解すような指圧にシフトチェンジして、特に酷い腰の辺りをじんわり揉みほぐした。
「…あー…その辺りだ。」
「え、固っ。鉄板でも入っているんですか?」
「うるさい。…もう少し上。」
「はい。」
莫迦のようなやり取りに湧く微かな慕情とをユウはそうっと心へ仕舞い込む。互いの体温を共有するだけの友人でもなければ恋人でもないが下手なそれらより距離の近い関係、微温湯に浸かっているが如く心地の良い関係を失ってしまうことが少し怖いという心情が自然とブレーキをかけさせた。
ジャミルが、ハグをするとユウからは見えなくなるところでひどく優越感に浸ったような恍惚とした笑みを浮かべていることも、周囲へ牽制していることも、強い独占欲を抱えているとも露とも思わずに。