第11章 理由
お好み焼きを食べ終わり、明日も朝からお互い任務なのでサクを家まで送り届ける。
ドアの前でしばらくたわいないことを喋った後、ふと沈黙がおとずれた。
「あ、あの、先輩。
うち、上がっていきますか?」
沈黙をやぶり、緊張のためか上擦った声でサクが言う。
サクからそんなことを言ってくれるなんて思わなかったから、言葉に一瞬つまってしまう。
「こんな時間に家に上げるって、どういう意味か分かって言ってんの?
次は、お腹鳴っても止めてあげらんないかもよ?」
「お腹いっぱいだから、もう鳴りません!」
茶化すようにオレの肩を軽く叩くサクの顔の横に手をつき、覆いかぶさるように顔を近づけると、サクが少し後退り、その背中がドアにぶつかる。
瞳を揺らし少し逡巡して、でもすぐに緊張した顔でオレを見つめて、「大丈夫、です」と小さな声で言う。
ホントは今すぐにでも抱きたい、けど……
さらに顔を近づけると、サクが反射的に目を瞑る。
その唇にチョン、と軽い口づけを送ると、体を離す。
サクが固く閉じていた目をそっと開けて、不思議そうにオレを見上げる。
「先輩……?」
「んー、今日はやめとく。
だってサク、明日も朝から任務でしょ?」
「わたしは、大丈夫ですよ?」
かわいく食い下がられると理性が揺るぎそうになるが、何とか堪えて続ける。
「ダーメ。初めてだと、女の子は体の負担が大きいから。
大事にしたいって言ったでしょ?
その代わり……」
そこでサクの背中に手を回し抱き寄せると、サクの耳元で囁く。
「その代わり、今度の金曜日の夜、任務終わったらサクん家、行ってもいい?」
土曜日は2人とも一日休み。
サクもそれは分かっているはずだ。
腕の中のサクは、オレを見つめると頬を染めて頷いた。
オレはその可愛い顔にもう一度優しいキスを送り、その日は幸せな気持ちで別れた。