第8章 決意
屋根の上を駆けるサクの腕をやっとのことで捕まえる。
「サク!待て!!
あの子とは、なんでもないから」
付き合ってもないサクにこんなこと言うのはおかしいが、言い訳のように口からするりと出てしまう。
くんっと、反動でこちらを向いたサクがオレをきっと睨む。
「先輩が誰と付き合おうと、わたしには何も関係ないですから!」
「……じゃあ、何で泣いてんの……?」
サクの目からは、ボタボタととめどなく涙が流れていた。
「っこれは、目にゴミが入ったんです!!」
「両目同時に?」
「そうです!!」
グイッと拳で涙を拭い、サクがもう一度オレを見て、それから視線を逸らす。
「だから、わたしは大丈夫ですから、彼女のとこに帰ってあげてください……」
最後は声が尻すぼみになってほとんど聞き取れない程になる。
ダメだ……。可愛い……。
なんでサクだけいつもこんなにオレの心を揺さぶるんだろう。
この腕を伸ばして、今すぐにでもサクを抱きしめたかった。
「あの子は昔先輩に連れられて行った酒場の子で、絡まれてただけだから」
オレの言葉に畳み掛けるように、サクがまくしたてる。
「でもっ!すごくひっついて親密な雰囲気でした!!
わたしは……、わたしは告白の言葉も聞いてもらえないに…!!」
そこまで言って、サクがハッとした顔になり口を手で覆う。
「あ、あの……。今の言葉、忘れてください!!」
一歩、二歩と後退ると、サクは、瞬身の術で姿をくらませてしまった。