第6章 海辺のバレンタインデー
「だからって色気のあるアンタなんて気持ち悪いからやめてよ」
「それ、ひどくない?」
ひどい言い草にジロリとハナを睨むと、目はチョコに向けたまま優しい顔でハナが笑う。
「アンタにはアンタの良さがあんでしょ。
真っ直ぐで、いつでも元気で笑顔でさ。
そういうとこ、好きだって言ってくれる人が必ずいるよ」
「……っ!ハナー!!
大好き!!」
ガバッと横から抱きしめるとチョコが少しこぼれてしまう。
「ちょっ、チョコこぼれたでしょ!!」
「わぁ!ごめん!!」
慌ててハナを離し、こぼれたチョコを布巾で拭う。
「ふふ。
そういう素直に気持ちを伝えられるところが、サクのいいとこだよ。
さっきは取られるとか言ったけど、サクのペースで頑張んなよ。
わたしはいつでもサクの見方だからさ」
「うん、ありがと。ハナ!」
その日は2人で遅くまで気持ちを込めてチョコを作った。
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バレンタインデー当日。波の国での任務を早々に終え帰路に着く途中、海を一望できる少しひらけた海岸に出る。
「わぁ!
海!きれいですね。」
「そう?
ただの海じゃん」
「えー。
海なんて滅多に見れないし、ちょっと降りましょうよ!」
「えー、寒い……」
たしかにまだ2月の今は、暖かい季候のこのあたりでもかなり寒い。
でもそんな先輩を無視して海岸に降りると、先輩も面倒くさそうな顔をしながらもついてきてくれた。
貝殻の混じった細かな砂を踏む感触が気持ちいい。
カニの親子がカサカサと岩陰に隠れるのを見ながら、波打ち際を歩く。
「あんまそっち寄ると、濡れるよ」
「平気ですーだ」
「ふーん」
ぼーっと少し後ろを歩いている先輩に、振り向きざま、海水を手ですくってかける。
「冷たっ!!
ちょ、お前ね!」
「アハハ!ボーッと歩いてるからですよーだ!」
先輩もお返しとばかりにわたしに水をかけてくる。
「わっ!」
大量の水がわたし目掛けてかけられ慌てて避ける。
「ちょ!先輩水多いですよ!!」
「そう?」
シレッと後ろ手でまた水をかけようとしてくる。
「ちょっと先輩!
セコい!!」
しょうもないやりとりをしながら、水を掛け合う。