第3章 潜入任務 下
「アホ面って…!」
文句を言おうとして、先輩のお皿のお団子が全然減っていないことに気づく。
「…先輩は食べないんですか?」
「んー、よく考えたら腹減ってなかったから、サクが食べていいよ。」
と、お皿をわたしの方に差し出す。
あ、へこんでるわたしを気遣って、連れてきてくれたんだ…。
先輩を見ると、素知らぬ顔でお茶を飲んでいる。
やっぱり、優しい。
顔から笑みが漏れる。
「なーにニヤニヤしてんの。
食べないなら、やっぱオレが食べちゃうよ。」
「えっ!?ダメ!ありがたく頂きます!!」
先輩がお団子の串を掴もうとするから、慌てて制する。
パクパク食べるわたしを先輩がリラックスした表情で眺める。
「そんな慌てて食べたら、喉つめるよ。」
「子供じゃないんだから、大丈夫ですよ!」
「どーだか。」
会計も先輩がしてくれて、甘味処を出る。
「ご馳走様でした。」
「うん、じゃ、疲れたし帰るか。」
「あっ待ってください。」
クルリと踵を返した先輩の服の裾を摘む。
「何?」
顔だけ振り向いて、先輩がわたしを見る。
「あの、ありがとうございました。」
「なんのことー?」
先輩はいつもみたいにポケットに手を入れると、ゆっくり歩き出す。
わたしはその背中を、置いていかれないように追いかけた。