第22章 愛ゆえの我儘
カタン……
かすかな物音がして重い瞼を持ち上げる。
「ごめん、起こした……」
小さな声でカカシが囁く。
いつの間にか机に突っ伏して寝てしまっていたわたしは、働かない頭で顔をなんとか上げた。
「もう、寝る?」
嫌だ。カカシと喋りたい……
わたしはなんとか首を横に振る。
「でも、すごく眠そうだけど……」
そう言って顔を覗き込んだカカシがクスッと笑う。
「……なに?」
「ほっぺ、ペンのインクがついてる」
「え!?」
パッと自分の頬に触れる。
書類を書いている途中で寝てしまったから、まだ乾いていなかったインクがついてしまったみたいだ。
カカシが手でゴシゴシと拭ってくれる。
「時間がたってるからか、取れないね……」
「うう、眠気も覚めるだろうし顔、洗ってくる……」
よっこらしょと立ち上がって、洗面所まで行く。
お腹が大きいと立つことさえ大変だ。
パシャパシャと冷たい水を何度も顔にかけると、ようやく頭がスッキリしてきた。
インクも水性だったのか、すぐに消えてくれた。
部屋に戻ると、カカシが装備を外しリラックスした格好でソファに座っていた。
「お、とれたね、インク」
「水性でよかったよ。
あ、カカシお腹空いてる?
焼きナスあるよ」
「作ってくれたの?
うん、食べたい。」
わたしは冷蔵庫で冷やしてあった焼きナスの皿と箸を持って、カカシの横に腰掛ける。
いつの間にか、カカシが2人分のお茶を用意してくれていたので、2人でちびちびとナスをつまみながら、今日あったことを話しあう。
肝心なことは話せないままイタズラに時間だけが過ぎる。
最初に口火を切ったのはカカシだった。
「サク、昼間はほんとゴメンな……。
逆の立場だったら、オレも里に残りたいって絶対思うと思う」
カカシがコップを見つめながら、静かに、言葉を探すかのようにゆっくりと喋る。
わたしも同じようにコップを見つめながら言葉を待った。
少し溶けた氷が、静かな部屋でカラ、と鳴った。
「でも、それでも……。
それでもオレは、サクには風見鶏の家に行ってほしい……」
わかってた言葉だけど、胸にズンと重しが乗ったような心地になる。
言葉を発することができずにただカカシを見ると、いつの間にカカシもこっちを見ていた。
目が合うとカカシがわたしをそっと抱き寄せた。