第15章 風見鶏の家
無理もない。
ここからその家までは真っ直ぐ進んでも2キロはある。
その道を子供の足で彷徨い、泣きながら歩いていたのだ。
先輩と顔を見合わせて微笑み合う。
「アオくん、背中つかまれる?」
コクリ、ともう落ちそうな瞼を懸命に開けながらアオがしゃがんだわたしの肩に掴まる。
膝裏を抱えて立ち上がると、アオがコテンとわたしの背中に頭を預け、幾分もかからないうちにスースーと健やかな寝息を立て始めた。
可愛いな。
弟がいるとこんな感じかなぁなんて考えていると、並んで歩いていた先輩がそっとアオの小さな頭を撫でた。
「寝ちゃったね……」
「はい。
疲れちゃったんでしょうね。
可愛いですね、アオくん」
「うん。
なんかオレ、ちょっとサクとの子供がいたらこんな感じかなー、て考えちゃった」
「え!?子供!?」
先輩の言葉につい大声を上げてしまう。
「う、うーん……」
モゾモゾと背中で身じろぎするアオにハッとなって口を閉じる。
「あ、別に今すぐ欲しいって訳じゃないからね。
ただ、いいなって思っただけ」
ポカンと口を開けて何も言わないわたしに、先輩がバツが悪そうに付け加えるから、慌てて「わたしも!わたしも先輩との子供がいたら幸せだろうなって、思います!!」と返す。
すると、先輩が笑って少し屈んで、口布越しにキスをする。
「んっ!」
「サク、あのさ。
今言う話じゃないかもしれないけど、最近考えてたことがあって」
先輩が急に真面目な顔になりドキリとする。
「なん、ですか?」
「オレら一緒に住まない?
そしたら任務ですれ違いが続いても帰って寝顔だけでも見られるし、サクがもし暗部を離れる日が来ても、一番一緒にいられるでしょ?」
「住みます!!」
考えるより先に勢いこんで返事をする。
先輩と一緒に住んだら楽しいに決まっている。
今より先輩とたくさん一緒に過ごせるなんて嬉しすぎる。
先輩が「返事、早すぎ」と笑う。
「だって、断る理由ないです。
先輩との時間が増えるんだもん」
弾んだ声で答えると、先輩が手で顔をかくしながら空を仰ぐ。
「先輩?」
先輩を見上げると、指の隙間からチラリとわたしを見下ろして、「……あのさ、サクのこと、今すぐ抱きたいんだけど……」とボソリと呟いた。