第9章 自分で
夜明け前に冨岡邸に着いた。
光希はこそーっと門から中の様子を覗く。
屋敷はまだ暗い。
よし…と音を立てずに門を潜り、玄関の戸を開ける。
そーっと慎重に戸を閉める、とそこへ「朝帰りとはいい度胸だ」と声がかかる。
ぎゃおっと声が出そうになる。
冷や汗を流してゆっくり振り向くと、寝間着の義勇が玄関で腕組みをしている。いつもの無表情だ。
「……すみません…只今戻りました……」
頭を下げる光希。
怒ってる?怒ってるよねぇ?これ。柱の威圧感怖ぇー!と思っていると、
「……戻ってきて良かった」と予想外の言葉が返ってきた。
「え……?」
「俺は、言葉が下手だ。だからお前を誤解させた、のかもしれない」
「誤解……」
「お前は成長してる。これからは俺からだけじゃなく、いろいろ学べ。吸収しろ」
「……はい」
「突き放したつもりはなかった」
「はい。がっつり誤解してました。帰宅が遅れて申し訳ありませんでした」
「千代が心配していた。俺のせいだと怒られた」
「す、すみません」
「明日、いや今日か。謝っておけ」
そう言うと、義勇は自室へ歩いていった。
ずっと起きていたのか、気配で起きたのかはわからない。でも心配をかけたことは確かだ。
そして、誤解をとくために、あり得ないくらいの量を喋ってくれた。
「あの……義勇さん!たまには一緒に稽古してもらえますか?」
去っていく姿に、声をかける。
義勇は「ああ」と答えて自室に消えていった。
……善逸が言った通りだ。あいつ案外凄えな
もう来られないのかもしれないと思った場所に、また来ることができた。
屋敷の匂いに目が潤む。草履を脱いで屋敷に上がった。
入浴する時間がないので少し沸かした湯で身体を拭き、朝まで仮眠を取ることにする。布団が温かく、目を閉じた瞬間に眠りに落ちた。
翌朝、涙を浮かべた千代から猛烈に説教をされ、光希はひたすら謝り続けた。
ちなみに、千代は昨日義勇に平手打ちをしたそうで、そこは千代も反省しているようだ。
千代にビンタされる義勇を想像して光希は大いに吹き出した。すると「誰のせいだと思ってるの!」とまた千代に怒られた。
義勇から一本取るとは、この女性は最強である。
その先はどれだけ怒られても光希が笑ってしまうので、千代も説教を諦めたのだった。