第58章 光
『今、一番辛いのは誰だ』
先程、義勇から投げられた言葉を思い出す。
……一番辛いのは、光希だ
善逸は光希の近くへ行く。
善逸は、自分の膝を抱えていた腕で、今度は光希を抱きしめる。すぐに跳ね除けられると思ったが、光希は彼の腕の中でおとなしくしていた。
おそらくこれは恋人の抱擁ではないのだろう。
「どうした、善逸」
「笑ってんじゃねえよ、こんなに辛くて悲しい音させてるくせに。聞いてらんねえよ」
「……じゃあ聞かなきゃいいだろ」
「冷たくね?」
「ははは」
「……笑うなっつの」
善逸は光希の背中をさする。
「へへ、笑わせろい」
「意地っ張り」
「意地も張らせろ」
「このやろ……」
善逸の肩越しに見える炭治郎も、心配そうに眉毛を下げている。
「善逸、ちょっと離れて」
光希に押されて、しぶしぶ身体を離す善逸。
「二人とも、心配かけてごめんな」
「心配するに決まってんだろ」
「うん。でもな、俺は……」
光希は隊服の襟を左手で掴む。
「この隊服を着ている時は、情けない姿を見せないと決めた。それは例え、お前たちの前だとしても」
「光希……」
「だから、悲しくても泣かないし、辛くても逃げない。この先、戦いの中でどんなことがあろうと」
そう言う光希の表情には覚悟が浮かび、どこまでも凛々しいその顔に思わず見惚れてしまう程だった。
「あ、本当だ……光希の隊服変わってる」
「ぷっ……あはは、炭治郎今気付いたの? 流石だな。女の子が服変えたら、ちゃんとすぐに気付いてあげなきゃ駄目だぞ」
「そ、そういうもんなのか?」
「そうだぞ。いくら服に無頓着でも、少しは頑張れ。俺は別にいいけどさ、好きな子の時は小さな変化も見逃すなよ?」
「う、うん」
炭治郎は頬を染めて俯く。
「善逸、機嫌治ったか?」
「……うん」
「まだ何か怒ってる?」
「怒ってるっつーか……」
「何?言ってみて」
「……俺、駄目だって言ったのに」
「ああ、それね」
「俺が止めたのに、勝手に行って、しんどい事実持って帰ってきた」
「それは、必要なことだったからだよ」
善逸が拗ねたように不満を言い始める。