第6章 蝶屋敷 2
翌日の訓練で炭治郎はアオイに勝った。
打ち震える炭治郎。飛び上がって喜ぶ光希。
そして光希とカナヲの鬼ごっこが始まった。
「始め!」
合図と共に走り出す光希。だが、カナヲはとても速い。そして全く速度が落ちない。
―――…速いのもあるが、動きを読まれてる
しばらく速さ勝負で追いかけるが、角に追い込んでも伸ばした手を躱される。捕まえられる気がしない。
直線で動いても話にならないと判断した光希は、追いかける立場であるにもかからわらずカナヲから遠ざかる。
誰もが、え?と思った。阿呆なのか?と。
カナヲも思わず足を止める。
その瞬間足に力を溜め、一気に加速した。身体がカナヲの方を向いていなかったのだが、足首を上手く切り替えしてドンッと音を立てて地を蹴る。一足飛びでカナヲの側まで詰める。
不意をつかれたカナヲ。慌てて飛ぶが、それを予想していたかのように、急に前への加速を止め、カナヲの着地するであろう場所に、再度進行方向を変える。
空中では移動ができないカナヲ。ふわりと降りてくるその手を光希が掴み「つかまえた」と笑った。カナヲも目をパチクリしている。
その笑顔に女子たちが皆、頬を染めた。
「うぉぉぉ!あいつ、捕まえたぞ!凄え」
「くそー、なんかいろいろムカつくな」
「凄いな光希。紳士だな」
「いや、これじゃ、駄目なんだ」
光希は言った。
「速さと体力で勝たないと。また明日もお願いします」
そう言ってお辞儀をした。
他の三人はカナヲに指一本触れられず、心が折れそうになっていた。
光希はこの日、薬湯ぶっかけもカナヲと五分の勝負をした。
一勝一敗。光希は薬湯をかけないが、カナヲは容赦なくかけてくるので、光希の髪はしっとりと濡れた。
悔しそうに濡れた髪を掻きあげる仕草に、また女子から黄色い声があがる。
それもあってか、伊之助と善逸は訓練に来なくなった。
炭治郎は心配して光希に相談したが、
「ほっとけほっとけ。そのうち来るだろ」と笑っていた。
善逸には気分転換の時間が必要なのはわかっていた。たぶんそれだ、と光希は思う。
追い込み型の自分とは違う。そのうち戻ってくるのも解っていた。
光希と炭治郎は訓練を続けた。