第41章 じいちゃん
井戸の方へ行くと、善逸は井戸の側で座り込んでいた。
「善逸?どうした、大丈夫か?」
「んー?大丈夫だよー……」
「大丈夫じゃないな。もう寝るか」
「まだ寝ないー……」
「水、飲んだか?」
「飲んだよ。飲みましたとも!」
「そうか。私も、飲も。借りるね」
井戸から水を汲んで、善逸の側に転がる水筒に入れる。一口飲んで、ふぅと一息つく。
「慈悟郎様も、お水欲しいかな。汲んでってあげよ」
光希は水筒を洗い、新たに汲んだ水を入れる。
「ほら、戻るよ」
「もうちょっとここに居る」
「置いてけないでしょ。酔ってて危ないのに」
「心配してくれてんの?」
「当たり前でしょ」
「ふぅーん、へへへ……」
「何笑ってんの」
「ね、俺たち、夫婦になったの?」
「どうかな。まだ仮祝言だからな」
「また仮かよ……」
善逸が口を尖らせる。
「さ、慈悟郎様も心配してる。戻るぞ。師範を心配させたら駄目だ。ほら、立って」
光希が腰をかがめて、善逸に向けて手を伸ばす。
その時、善逸は何度もこの光景を見たことがあると酔の回った頭で考える。
昔から、座り込んで泣いて立ち上がれなくなったときに、光希はいつも迎えに来てくれた。そしてこうして自分に手を差し伸べてくれる。
時に叱りながら、時に笑いながら……
善逸は光希の手を取り、ぐっと自分に引き寄せた。光希は善逸を引っ張り立たせようと後ろへ引こうとしてたのに、それ以上の力で前に引かれて「わっ」と声をあげる。
善逸の胸の中にすっぽりと包まれる光希。
ぎゅっと抱きしめられる。
「仮だってわかってる」
「善逸……」
「でも、それでも……俺は嬉しいよ。夢みたいだ」
「そうだね」
「光希は、俺の嫁」
「ふふ」
「なんで笑うの。違うの?」
「……違わないよ」
「へへ」
善逸が愛おしそうに光希の頭に頬ずりをする。