第33章 恋人として
「そろそろ大丈夫かな……」
光希が後ろを確認した瞬間、人さらいのように善逸は光希を抱き上げ、街道脇の林に入る。
光希でさえも、一瞬状況を見失う程の速さ。
ザザッという音を立てて林に入り、木の影に光希を下ろして口付けをする。
「……んっ!」
善逸は木の幹に光希の背中を押し付け、彼の腕は彼女の後頭部と腰をがっちり掴んで逃さない。
「こらっ!こんなところでっ……」
口が離れた時にぐっと身体を押すが、敵うはずもなく動かない。
そのままぎゅっと抱きしめられる。
「はぁ……。俺、結構我慢したと思わない?」
「その反動なのね。いきなり過ぎるよ」
「ね、褒めて」
「偉かったね」
「好きだよ、光希」
「うん、好きだよ、善逸」
「やっと、聞けた…よかった……」
「音でわかってたでしょ」
「いや、あんまり。光希は冨岡さん家だと自制してるからか、よくわかんない音になっちゃう」
「へぇ、そうなんだ」
善逸は光希とおでこを合わせる。
「んー、少し熱いかな」
「大丈夫だよ。俺は平熱高めだし。許容範囲だ……です。えへ」
善逸は苦笑いしながら、また口付けをする。
「可愛い恋人ってのはどこにいるのやら」
「目の前に居ます!私でーす!」
「ははは。行こうか」
善逸は光希の手を引いてまた歩き出す。
今度は恋人として。
……やっと、俺の元に帰ってきた
善逸は隣を歩く恋人を見つめる。
自分の無力さに打ちひしがれて泣いて、悩んで、どうかなりそうだった。
また変わらずにこうして、ここにいることを選んでくれた彼女に感謝する。
……また、ここに居られる
しんど過ぎる課題を突きつけられて、珍しく卑屈になって落ち込んだ。
でも、死にそうになったとき、まっすぐに自分の所へ走って来て抱きしめてくれた。
いつも、駄目になりそうときに支えてくれる彼に感謝する。
喧嘩して、距離を置いて、また仲直り。
―――俺は、どうしようもないくらい、こいつが……好きだ
二人共、全く同じことを考えていた。
絆が強くなったかはわからないけど、幸せを沢山感じながら二人はゆっくりと歩いた。