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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第11章 一本


光希は打ち込み台を破壊した勢いそのままに、今度は体制を低くして義勇の足を狙う。

義勇は破片を捌きながら、攻撃を躱すため光希の間合いの外へ飛び退いた。


―――――今だっっ!!!!


「やあああーーーっ!!!」

珍しく光希が叫んだ。
足に力を入れ、義勇が想定している間合いの先へ踏み込む。そして木刀を両手から左手に持ちかえる。

今まで一度も見せてない左手の一振り。

左手一本なので、間合いが広がる。そして光希の左手の一振りは、義勇が思うものより格段に速かった。


パシィッ……

稽古場に乾いた音が響いた。


光希の木刀が義勇の右足に届いた。

目を見開く光希。
左手に確かな手応え。一本と言うには浅いものだろう。しかし、初めて自分の刀が義勇に届いた瞬間だった。


「……よし。一本だ」

義勇の声に、はっとして我に帰る。

「は、はい!ありがとうございました」

直立をして頭を下げる。
一本と認めてもらえた。


義勇は無言で光希に近付く。
自分の木刀は脇にかかえ、光希の両手を取って、手のひらを見る。
明らかに左手の方が硬く、何かと使われているのだとわかる。


「……箸が右だからな。騙された」
「筆と箸は右なので」
「左で剣を振るところを見たことがない」
「鍛錬では右手を中心に鍛えてます」

「気付かなかった」
「そりゃぁ、俺の切り札ですから」

光希が嬉しそうに笑うので、義勇もほんの少し微笑んだ。

「……!義勇さん、笑った!」
「……笑ってない」

義勇は光希はプイッと背を向けて、木刀を片付ける。

「稽古、ありがとうございました!またお願いします!!」

光希が深々とお辞儀をする。


稽古場を出ていこうとする義勇は一度振り返り「左利きだとわかった。次はこうはいかない」と言った。

「はい! あ、あと打ち込み台破壊してすみませんでした。新しいの買ってください!」
と、ちゃっかりおねだりする弟子にまた口元が緩みそうになったので、義勇は「わかった」とだけ言って稽古場を後にする。


廊下に出ると「いやったぁぁぁーー!」と稽古場から喜びの雄叫びが聞こえたので、人知れず義勇は笑った。

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