第7章 ※制御不能
障子から差し込む光が弱くなり、夕暮れが近づいているのが、わかった。
義勇は仰向けで暗くなっていく部屋の天井を見つめていた。傍らには陽華が寄り添い、静かに寝息を立てている。
(錆兎、すまない…。)
後悔はしていない。けど、ほんのひとときでも、また幸せを感じてしまった自分を恥じていた。
「う~ん、義勇。」
陽華がもぞもぞと動いて顔を上げると、義勇の顔を覗き込んだ。
「寝ちゃった。…おはよう。」
その姿がほんとに愛おしくて、義勇はぎゅっと抱きしめたい衝動を抑えるのに必死だった。
「大丈夫か?…その、痛みとか。」
「うん、ちょっと痛むかな?まだ中に義勇がいるみたい。」
「……変なこと言うな。」
義勇は顔が熱くなるのを感じた。もう少し明るかったら、きっと顔が赤くなってたことに気がつかれただろう。
顔を背ける義勇の肩に、陽華が頭を乗せてすり寄ると、ボソッと呟いた。
「………ごめんね。」
「なんで、謝る?」
「義勇の気持ちとか考えないで、私の我が儘でこんなこと…、」
「なら、謝る必要はない。それに答えたのは俺自身の判断だ。」
反省なら、自分の中ですればいい。どちらかに非があるわけではない。お互い様だ。
「うん、ありがとう。」
陽華はモゾモゾ動いて、義勇の肩に額を押し付けた。その拍子に義勇の脇腹に柔らかいものが当たり、義勇はギクッとした。
一瞬で収まっていた物が起き出し、下半身が熱くなるのを感じた。
(まずい…。)
義勇は全てを忘れるように、静かに体を起こした。
「夜の見回りに行く。昨日の鬼が現れるかもしれない。」
そういうと隊服を来て、陽華を置いて出ていってしまった。
陽華は、義勇が陽華に掛けたまま置いて行った羽織を抱き締めた。義勇の香りが残ってる。
それと同時に、羽織の模様が目に入り、思わずに部屋の角に投げつけた。
死してなお、義勇の心を拘束しつづける錆兎に嫉妬した。
ー制御不能 完