第1章 ☆ プロローグ
だんだん蒸し暑くなってきた6月の中旬。
季節外れの転校生としてキミはやって来た。
今世間は梅雨だの梅雨前線だのやらで騒がしい中、僕らの学校には桜が咲いた。
甘い春色の香りを身に纏ったキミは僕らの前に現れた。
笑った顔は儚く綺麗で、
泣いた顔は憂いをおびて美しく、
怒った顔は可愛いくて、
困った顔は愛しくて、
楽しい時は悪戯っ子のように無邪気に笑って。
色んなキミを見たい。
そんな気持ちが僕らを狂わせる。
「上村さん、抱きしめてもいいですか?」
「華音っち、好きって言ったら迷惑っスか?」
「華音、オレだけ見てろよ…?」
「上村、その…あ、愛してる…何て言ったら怒るか?」
「華音ちん、いい匂いだから…食べてもいい?」
「華音、僕を愛せ。僕もキミを全力で愛す。」
それぞれがそれぞれで傷つけあい、愛し合い、すれ違って今を作った…。
キミの発する全ての言葉は甘い余韻を残して、僕らの中に入ってくる。
「私もあなたを愛しています。」
その一言が聞きたくて僕らは今日もキミを想う。