第1章 芸人の道へ
「、帰るで!」
「はい!」
簓さんと同じライブに出た日はなるべく一緒に呑む、簓さんが仕事がある時は無理だけど。
会場を出ると出待ちをしてるお客さんが沢山いた、殆どが簓さん目当てだと思う。
だから俺は端で簓さんを待つ事が多い。
俺も昔は同じように出待ちをしてワクワクしてたな、なんて眺めていると俺のファンだろうか声を掛けてきた。
「さん、お疲れ様です!ネタ面白かったです!」
「ありがとうございます」
俺の周りにはいつもより多く出待ちがいることに気づいて何事かと思った。
そうだ、この間若手芸人が出る深夜のネタ番組に出演したのが影響しているのかもしれない。
「一緒に写真撮ってもらえますか?」
「いいですよ」
「面白かったってちゃんと宣伝しといてくださいね」
「ふふ、はい」
写真を撮り終えた後「これ……」とメモを渡された。
チラリと見ると番号が書いてある。
「良かったら連絡してくれませんか?待ってます」と彼女は言い離れていった。
こういうのは割とある、ただ連絡するかは人による。
メモをポケットに入れながら辺りを見回すと出待ちも随分減っていた。
相変わらず簓さんの出待ちは絶えない。
やはり端で簓さんを待つのは変わらないようだ。
出待ちがいなくなったのを見計らって簓さんと俺は会場を後にした。
ここ最近はどちらかの家で飲むとことが多い、外で飲むと簓さんに気づいて声を掛けてくるからだ。
今日は簓さんの家。
ガサゴソと鍵を取り出し鍵を開けた簓さんは俺を先に入れてくれた。
そして玄関を閉めた瞬間、俺は壁を背にして簓さんにキスをされていた。
「んっ…!ちょっ…ん!はぁ…、どうしたんですかっ」
「敬語やめろや、二人きりの時は敬語禁止やろ?」
「わ、わかったから急になに」
「これ」
さっきファンの子に渡されたメモを俺の顔の前でヒラヒラと簓さんは揺らした。
「え、いつの間に……」
「いつの間にちゃうわ、今日はぎょうさん出待ちおったなぁ?良かったやんけ」
簓さんの満面の笑みがとても怖い。
「本当嬉しい限りで……」
「何受け取っととんねん連絡先」
「その場では無下にできないし」
「これは没収な!」
ケラケラ笑いながら靴を脱いで廊下を歩いていく。
簓さん見てたのかよ!