第1章 芸人の道へ
それから五年。
養成所を卒業して四年が経った。
養成所は学ぶ場所だが相方を探す場所でもある。
そこでみつけた相方の龍太郎と漫才をやっている。
コントもたまにやるけどやっぱり漫才が好きだ。
簓さんとは一年前にやっと同じライブで共演することができて忘れられない日になった。
でももうそんなこと言ってられなくなった、簓さんとはライバルでもあるんだ。
芸歴四年目にしてはファンは付いた方だと思う。
出待ちの数も増えた気がするし、ノってきてると思ってる。
そしてこの四年間で二つ事件が起きた。
一つは簓さんと盧笙さんが解散したこと。
悲しかった。
ずっと応援してきた一ファンとして尊敬する先輩として考えられないことだった。
盧笙さんは芸人を辞めて教師になった。
辞めないでくださいって伝えたかったけど二人が決めたことだし、後輩の俺が言えた立場じゃないし。
盧笙さんが事務所を辞めた日、挨拶をしたくて盧笙さんに会いに行ったんだ。
「盧笙さんお疲れ様です」
「おおやん、今日で会うの最後かもしれへんな」
「そんなこと言わないでくださいよ……」
「ははは冗談や冗談、そう落ち込むなって。今まで応援してくれてありがとな、これからもなりに頑張れよ」
「っ……は、い」
「泣くなや、笑顔で送ってくれや」
「すみません、盧笙さんもこれから頑張ってください!」
「ありがとう、俺の分まで笑かしてくれよ」
盧笙さんは優しい笑顔で俺の頭をくしゃりと撫でた。
涙が止まらない俺を盧笙さんはずっと慰めてくれたのを覚えてる。
盧笙さんは去り際に「簓をよろしゅうな」と言っていたけど、宜しくしてもらってるのは俺の方だ。
簓さんは割りとすぐにピンで活動を始めた。
やはり簓さんは凄かった。
ピンになっても笑いをかっさらっていく。
これはもう才能だ、芸人に成るべくして成ったんだ。
テレビに出突っ張りの簓さんを見てるとこっちも元気になるし、負けてられるかって気持ちにさせてくれた。
やっぱり好きだな、簓さんのこと。