第6章 簓さんと漫才
「ふうー」
緊張、膝が笑っている。
賞レースとはまた違う緊張感にネタを飛ばしてしまいそうだ。
何せ隣に居るのは白膠木簓。
迷惑かけられない、かけてはいけない。
そんなことを考えている俺の緊張が伝わっていたのか、簓さんは俺の背中をポンと叩いた。
「大丈夫や、俺らの漫才はおもろい。一丁かましたろや」
簓さんはいつものように笑って見せたが、前を向き直した瞬間顔つきが変わった。
オレンジ色の千鳥格子スーツに右手に持った扇子、赤いネクタイがきまっている。
舞台上で一緒に立ったのはいつ以来だろう。
簓さんのキリッとした顔を見て、俺も気合いをいれようとスーツの襟を整えた。
出囃子が流れて俺たちはステージに飛びだした。
「はいどうもー!38MICです、よろしくお願いしまーす、どうもどうもありがとうございますー」
ネタは10分。
俺がボケで簓さんがツッコミだ。
ボケてはツッコんで笑いが起きる、テンポを早め笑いを叩き込んでいった。
「なんやねんそれ!しょーもないボケ言うやつには扇子で顔隠したるわ!」
「俺の顔隠したら視聴率下がるだろ!」
「そんなわけあるかい!もう止めさせてもらうわ」
「ありがとうございましたー」
一礼して舞台袖に捌けた。
観覧募集で集まったお客さんも温かく、スタジオは笑いで包まれた。
楽しかった、すごく。
緊張したけどそれより楽しさが上回っていた、簓さんと漫才したんだ。
「お疲れさん!なかなかウケたな!」
「思ってた以上に良かったと思う!」
「もテンポええ感じやったな」
「ほんとに?良かった!」
簓さんは言うまでもなく完璧だった。
「オンエアが楽しみやな!」
「一緒に見たいな、盧笙さんも」
「盧笙何て言うやろな。久しぶりに漫才したけどやっぱええな、盧笙気い変わらんへんかなー」
やっぱり簓さんの中では盧笙さんしかいないようだ。
そう考えると信じれる相方がいるって凄いことなのかもしれない。
龍太郎とは相性良いしお互い認めあっている。
龍太郎ともっと面白いネタを書いて、頂点を目指したい。
「と漫才やれて良かったわ、誘ってくれてありがとな!」
「こちらこそ引き受けてくれてありがとうございました」
簓さんに深々とお辞儀をした。
こんな貴重な体験はそう無いのだから。