第6章 裏切り
「…お前!一体どういうつもりだ!?」
落ち着け、このままでは敵の思うつぼだ!と自身に言い聞かせるが、あまりに予想外のことすぎて珍しくも思考がついていかない。
ワナワナと爪の食い込む俺の拳が震えていた。
「こっちとしても実験体が足りなくてね…
木の葉で数人くらい連れてこようと考えてたわけさ。
そしたら先に捕まえていたこっちの女が身寄りのないやつに心当たりあるっていうもんだから、部下にいって連れてこさせた。身寄りがないのは好都合なんだよね、こっちとしても」
信じられなかった…すいれんが…まさか…
「すいれん…お前、…アンナを売ったのか?」
すいれんは俺と目を合わすことなくうつむいている。
「答えろ!」
俺の声だけが虚しくこだました。
「隊長…とにかく人命優先です。ここは一度落ち着いてください…」
1人の部下の言葉にハッと我に返る。
アンナと俺の関係については誰も深く知らない。
だが、話の流れからして、同じメンバーの暗部が、里の住人を敵に売ったことは明らかにメンバーの動揺もさそった。
だがそれ以上に、隊長である俺自身が感情をむき出し、取り乱してしまったことからメンバーが冷静にならざるを得なかったのだろう。
「すまない…もう大丈夫だ…」
隊長失格だな…と思いながら冷静さを取り戻す。
アンナはお面をしている俺に半信半疑だったようだが、声を聴いて気づいた様子だった。
大きな瞳は恐怖にゆれていたが、必死に泣くまいとこらえていた。
「もうすぐほかの部隊もかけつける。
お前には逃げ場はない。あきらめろ」
「そりゃ厄介だね。でもどーでもいいんだよ。
俺の体はもうボロボロだから。
けどせっかく手に入れた実験体をどちらも返すのは気がひけるな。だから君が選べるのは1人だけ。どちらを返してほしい?」
「は…?」
こいつは本当に頭がいかれてると思った。
俺に人質解放をどちらにするか選べというのだ。
「お前のいうことなど信用できない。1人を選べなんていいながらお前はどちらも手に入れる気だ。俺は2人とも助ける。選択しは他にはない」
きっぱりと言い切った俺と男の間に沈黙が流れた。
短いようで長いにらみ合いが続き、互いの隙を探りあう__