第10章 どこにも行けない想い
「無理ですよ?」
自身の手にこぼれたチューハイをぺろりと舐めて黒崎君は言う。
きょとんとしている私をよそに、彼は続けた。
「何度誤魔化してみようとしても、神代は早瀬さんのことが好きなんですから。」
「・・・・。」
心の奥に響く、絶対的な現実。
静かな間に、携帯の着信音が流れた。
その場の空気を動かしたいがためにも慌てて携帯を取りに動く。
「・・・神代ですよね。」
黒崎君の言うとおり、メッセージは神代君からだった。
『水曜のテストが終わったら夜景を見に行こう』
「・・・夜景。」
「見に行こうって?」
黒崎君は笑ってる。
「うん。・・・・でも私・・・」
「行きなよ。」
行かない。って言葉を言う前にかぶせられた。
「でも・・・」
「どこまで自分自身を誤魔化して一緒にいられるかちゃんと見ていてあげますから。」
静かに笑って、目線をテレビへと戻す。
・・・・・。
「癒しに来てくれたって言ってたのに・・・」
ぽたっ・・・と滴が落ちる音がして気付いた。
私は、泣いていた。