第11章 間章 -Interlude-
監視官・真壁亜希は、テラスでヴァイオリンを弾いて、メロディーを奏でていた。
———真南に太陽が見える。
蒸し暑い空気が漂う中、休憩中の亜希は青く染まる空の下で多数建つの細長いビルが日を受ける様子を目に入れて、右手で弓を動かしていた。ビルが少し影になってくれているおかげか、亜希が立っているところは日陰になっていてぽわんと生暖かい風が吹く。
彼女の演奏を聴く客は居ない。無表情な高い建物を目の前に、艶のある黒髪を揺らしながらただひたすらに、音楽を楽しんでいた。
亜希は数十分経って、ヴァイオリンを鳴らすのをやめた。派手にその音を響かせ続けていたからなのか、彼女の顔は若干疲れている様にみえる。おまけに額に汗が滲んでいるではないか。
しかしながら亜希の顔は、先ほどテラスに来た頃よりもどこかすっきりしているようにも見える。
弓を持っている右手を下に降ろし、楽器本体から顎を離す。
———ここは、静かな場所だ。
今日は特に天気が良いため、風が吹く音以外は特に目立つ音はない。
自身の頰に時々吹いてくる心地よい風を受けながら少し涼んでいると、コツコツと靴音が後ろから聞こえてきた。その音にピクッと反応した亜希は、顔を音立つ後ろへと向けた。
「……ほんと、よくそんなに弾けるな」
亜希、と両手をポケットに突っ込みながら入り口から自分の目の前へと歩いてくるのは、同じ一係の監視官・狡噛慎也だった。
「っ!? ……なんだ、慎也だったのね。お疲れ様」
相変わらずだな、と突然、喋りながら歩いてきて横に並んだ狡噛に驚きながらも亜希は、彼の姿に安心してそう言った。
「あぁ。……ここ最近はまともに休めないからな。……疲れが溜まってたのか?」
日々日々積み重なっていく事件の処理に追われる一係は、暑い夏の力も加わってそろそろ限界へと近づいていた。
狡噛は、亜希の普段よりも荒く、激しいヴァイオリンの音に気づいたのか、そんなことを彼女に言った。
「……ふふふっ。いつの間にか、あなたに音色で気分を判断される様になってしまったわね」
彼女はくすりと笑いながら、「まぁ、間違ってはいないけど」と喋った。