第5章 思い出の公園へ〈主人公目線・津軽目線〉
車に戻った津軽さんのポケットから、チューインガムがポロリと落ちた。
津軽さんはサッと、拾ったけれども、そのガムには、眠気打破!梅味珈琲ミントと書いてあったのを、わたしは見逃さなかった。
やっぱり、津軽さんは物凄く眠いんだ。
だけども、わたしをあの公園に眠気と戦いながらでも、連れて行きたいのだ。
胸に広がるのは、痛みを伴った様な嬉しさ。
わたし!津軽さんが変であろうと、どうであろうと、いい!
こんなに津軽さんは、わたしを思ってくれてるんだから、変な詮索は、止めて十分楽しむ事が 今一番、津軽さんを喜ばす事になるのだから。
「津軽さん、わたし長野出身なんで、子供の頃から、海って凄く憧れてて、テンション上がってます!」
わたしが 笑いながら 元気に言うと、津軽さんは、ふっと目元を緩ませて、左手をハンドルから外すと 前を向いたまま、わたしの頭をくしゃりと撫でた。
「ウサ、スピード上げるよ。この道確か 切符切られるとこないから」
津軽さんは、アクセルを深く踏んだ。車は、速度を上げて走り、周りの景色がどんどん飛んで行く。
「ウサちゃん、あんな豪華なお弁当作るのに、本当は、寝ずに作ったんだろ?」
津軽さんは、冗談交じりに言った。
「いえ、昨日早く帰れてたので、昨日のうちにかなり、下準備してたんです。だから、そんなに早く起きてないです」
「問題は、味だな」
「味に付いては、津軽さんに言って欲しくないです。津軽さん、どうせ、マイスパイス持参でしょう?」
「あ!俺、マイスパイス忘れた!」
「えーーーーー!」
「大丈夫。ウサちゃんの手作りお弁当なら、きっと美味しい筈でしょ?」
「津軽さんの味覚に合う自信ある人って......」
「いいのよ、いいの、ウーサちゃん。コンビニで七味唐辛子とタバスコ買ってもいいんだから」
津軽さんの事は心配ではあったけれども、何時もの軽口の叩き合いは、とても楽しい。
「ウサちゃん、あのカーブ曲がったら、海見えて来るから」
「はい!」
車が大きくカーブを曲がると、右手に真っ青な海が見え始めた。
真っ青な空に浮かぶ入道雲。
それに、溶け合う様な 凪いだ海原。
「ウサちゃん、窓開けていいよ。磯の香りがするから」
「はい!わぁー、海の匂いがします!津軽さん」
「気持ち良いだろ。ウーサちゃん」
津軽さんが嬉しそうに笑った。