第1章 憧れと現実
「で、何があった」
軽やかなジャズが流れるカフェ。
店内には制服の女子高生やパソコンと向き合うスーツ姿の男性が多く居る。
流石は都会と言うべきか。
夕方の時間帯でも一定数お客さんは居る。
彼女達の楽しそうな笑い声を聞きながら、私は目の前の男と向き合った。
「……家が決まらないの」
「は?」
「だから、住む家が決まらないのよ。
どこも皆家賃高くて普通に予算オーバーなの」
はぁ、と深い溜め息を吐きながらカフェラテに手を伸ばす千秋。
男性にしては珍しいくらいに指先は華奢で、その仕草1つでも絵になる。
そう、黙っていれば顔は良いのだ。黙っていれば。
注文の時の店員さんの目も、千秋しか見ていなかった程だ。
「お前の予算はいくらなの?
こっち物価とか諸々高いの知らなかった訳じゃないだろ」
「う……」
「はぁ?知らなかったの?」
「返す言葉もございません……」
「まじで有り得ないわ、まじで」
カフェラテの氷をストローでカラカラと弄びながら言う。
私の方は物凄く千秋に睨まれているので、抹茶オレに手を伸ばせない。
氷が溶けていくのをただただ見つめるだけ。
早く飲まないと氷で味が薄くなっちゃうのに。
ゆっくりと抹茶オレに手を伸ばすと、すかさず千秋に睨まれた。
「お前、相談に乗って貰う立場で優雅にお茶出来ると思ってんの」
「だ、だって氷溶けたら味薄くなっちゃうし……」
「俺が折角話聞いてやってんのにお前は抹茶オレを取るわけ?
まじでないわ」
「ご、ごめん……でも私、相談乗って欲しいなんて一言も言ってな……」
「あんな泣きそうな顔しといて声掛けるな、なんて無理な話だろ。
この悪魔め」
「酷い、そんな言い方……」
「あの泣き顔は話しかけさせる為にやってんだろ。
それでどこぞの男に慰めて貰うつもりだったんだ?」
刺々しい言い方。
泣きそうだったのは事実だけど、でもそこまで言うことないじゃん。
確かに慣れない土地で知ってる人に会えたのはホッとしたし、話も聞いて欲しかったけど。
けど!