第5章 境界線
さざ波の如く聞こえるかすかな物音に耳を傾け、肩まで温かい湯に身を沈めた。
野良のことが頭を過り暗い気分になる。
「野良に会ったのですか…」
「深緋。」
神流は俯いた。
野良のことは知っているが、自分が使っていたかどうかの記憶がない。気がつくと夜卜と知り合いその縁で野良と知り合ったものだと思っていたが、野良は名前を呼べといった。
「つまり、野良に名前を与えたのですね。」
「だけど、まったく覚えていないんだ。なんという名前なのか、そもそも使っていたことすら忘れていた。」
「私も皆も責めたりしません。今は、我等は貴方の神器なんですから。」
水面に映る、自分の背後でそっと微笑んでいる深緋の顔が目に入りそして揺れた。