第4章 夕虹
沈んだ顔をする智には悪いけど、今のこのバイトは、健全なものではない、と、ようやく気づいてくれたことに、密かにほっとした。
こんな危険なこと、一刻も早くやめてほしい気持ちに最初から変わりはないのが俺のスタンスだ。
どうしてもこのバイトがしたいならば、せめて成人してからにしろと。
口酸っぱく言い続けたつもりだ。
「……特殊なバイトだもの」
俺は、うつむいた智の頭をよしよしと撫でる。
「そんなの最初から分かってたことでしょ?」
「……うん」
「消えたいなら辞めな。今すぐ」
「…………」
「サト」
「…………辞めない……けど……」
「……けど?」
「……そのうちにね」
そう呟き、智は、ゆっくり俺にもたれかかってきた。
辞めるとは言わないのか。
……いったい、何をそんなにこの仕事にこだわっているのだろう。
訝しく思いながらも、その体をしっかりと抱きしめ、裸のままの背中を優しく擦ってやる。
温かなすべすべした肌。
俺は、労るように智の背中を何度も擦った。
俺に本音を吐く智をいとおしく思う。
彼が気に病むことは、全て聞いてあげたいと思う。
だから。
……松本の存在を強く警戒する自分がいた。
……あいつが智のことを聞いてきたのはついこの間だったはずなのに。
人に興味ないはずの智に、いつのまにここまで意識させるようになった?
腕のなかでおとなしくしてる智の髪に鼻を近づける。
すっきりしたミントの香りのするシャンプーに混じり、智の甘い体臭がする。
気をつけなきゃ。
あいつが智のことを嗅ぎ回らないように……。